少子化や核家族化が当たり前となった日本では、相続した実家が不要となるケースがとても増えています。
これが今大きな社会問題でもある「空き家問題」ですが、空き家になった一戸建てを相続したらすぐに売却するケースも多いですが、そのためには名義変更が必要です。
名義変更は、分割の仕方によって必要書類が異なります。
「分割方法」と「必要書類」は密接に関係するため、相続の手続きもしっかりと理解しておくことが必要です。
こんな悩みをスッキリ解消!
- 相続した一戸建てを売却する時に必要な書類って?
- 一戸建てを相続した際の手続きや期限は?
- 名義変更にはどんな書類が必要なの?
この記事では「相続した一戸建てを売却するときの必要書類」について解説します。ぜひ最後までご覧ください。
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【執筆・監修】不動産鑑定士・宅地建物取引士・公認不動産コンサルティングマスター
株式会社グロープロフィット 代表取締役
大手ディベロッパーにて主に開発用地の仕入れ業務を長年経験してきたことから、土地活用や不動産投資、賃貸の分野に精通している。大阪大学卒業。不動産鑑定事務所および宅地建物取引業者である「株式会社グロープロフィット」を2015年に設立。
資格不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士・公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)・中小企業診断士
1.一戸建てを相続したときの手続きと期限
まずは、一戸建てを相続したときの手続きとそれぞれの期限を下図に示します。
まずは遺言書の有無の確認から
相続が発生したら、まずは遺言書の有無を確認することから始めます。
遺言がある場合
遺言書が存在し、一戸建ては誰が引き継ぐかが記載されていれば、遺言書に従って引き継ぐ人に名義変更を行うのが原則です。
遺言が無い場合
遺言書がない場合、引き継ぐ人を決めるには遺産分割協議を行う必要が出てきます。
遺産分割協議とは、「誰がどの資産を引き継ぐか」を決めるために相続人全員で行う話合いのことです。
被相続人の全ての資産の確認
遺言書の有無の確認が終わったら、被相続人(死亡した人)がどのような遺産を持っていたかを確認します。
相続で引き継ぐ遺産は、一戸建てや現金等のプラスの資産の他、借金等のマイナスの負債も引き継ぐ点が特徴です。
様々な相続に関わる期限
相続は、「いつまでに◯◯をしないと権利がなくなる」というような、期限が複数あります。
これを知らずに逃してしまうと、後から大きなトラブルになる可能性があるので、まずは期限をしっかり押さえましょう。
相続放棄の期限
「相続開始があったことを知った日から3ヶ月以内」が相続放棄の期限となります。
※相続放棄とは、相続の権利を全て放棄することです。
まず最初に被相続人の遺産を調べ上げ、プラスの資産よりもマイナスの負債の方が大きい場合には相続放棄を選択した方が有利ですので、期限までに相続放棄を行います。
相続放棄は負債を逃れるだけでなく、特定の相続人に遺産を寄せるために利用されることも多いです。
例えば、兄と弟が相続人で、兄が親とずっと同居していて今後も一戸建てに住んでいるような場合、弟が相続放棄をすることで兄に遺産を全て引き継がせることもあります。
相続放棄を行えば、わざわざ遺産分割協議を行わなくても特定の相続人に一戸建てを引き継がせることができるため、相続放棄を上手く使って遺産を引き継ぐ相続人を決めることが出来るのです。
準確定申告の期限
「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」が準確定申告の期限となります。
※準確定申告とは、被相続人が死亡した年の1月1日から死亡日までの所得に関する確定申告のことです。被相続人が毎年確定申告を行っていた人であれば、準確定申告が必要となります。
相続税の申告と納付の期限
相続税の納税義務のある人は、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」に相続税の申告と納付をする必要があります。
※相続税が発生しない人は、特に申告と納付は不要
2.売却には名義変更が必要な理由
相続した一戸建てを売却するには、原則として名義変更が必要となります。
名義変更が必要な理由は、購入検討者に対し所有者を明確にするためです。
法律上、相続した物件に名義変更を行う義務はありません。2021年2月時点において、相続物件の名義変更の義務化は検討中ですが、今のところまだ義務にはなっていないため、売却をしないなら名義変更は必要ないでしょう。
しかし、売却するとなると、様々な視点から名義変更が必要となります。具体的に見てみましょう。
被相続人(亡くなった人)の名義のままの物件は、買主からすると売主が誰なのか明確にわからずリスクがあるためなかなか売れない
例えば、被相続人の名義のままの物件を購入し、後から隠し子のような「見えない共有者」が現れて「自分も共有者の一人で売却には反対だ」と主張されてしまうと、売買が成立しなくなる恐れがある
このようなトラブルを未然に防ぐためにも、売主が誰かを明確にするために、相続物件は名義変更してから売却する必要があるのです。
3.名義変更の種類と必要書類
この章では、「法定相続による名義変更」、「遺言による名義変更」、「遺産分割協議による名義変更」の3つの名義変更の種類と必要書類について解説していきます。
法定相続による名義変更
法定相続とは、法定相続割合によって共有のまま不動産を保有すること
一戸建てを売却し、現金を相続人同士で分け合う場合には、法定相続の形で名義変更を行います。
物件は共有状態となりますので、売却には共有者全員の同意が必要です。
また、売主は共有者全員となるため、売買契約書にも共有者全員が売主として署名押印を行う必要があります。
法定相続による名義変更の必要書類は以下の通りです。
法定相続による名義変更の必要書類
- 被相続人の10歳前後から死亡に至るまでの継続した全ての戸籍謄本
- 被相続人の除住民票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 固定資産税評価証明書
- 相続関係説明図(任意)
相続関係説明図とは、相続人の関係性を表した模式図のこと
特に決まった書式はなく、提出は任意となりますが、相続関係説明図も添付すると戸籍謄本の原本を返してもらうことができるというメリットがあります。
戸籍謄本は他の手続きでも利用する可能性があるため、相続関係説明図も添付することは多いです
遺言による名義変更
遺言書がある場合は、遺言による名義変更を行います。
遺言による名義変更の必要書類は以下の通りです。
遺言による名義変更の必要書類
- 遺言証書
- 遺言者の死亡事項の記載のある除籍謄本
- 遺言により相続する相続人の住民票
- 固定資産税評価証明書
- 受遺者の戸籍謄本
- 相続関係説明図(任意)
遺言書には、主に自筆遺言と公正証書遺言の2種類があり、自筆遺言の場合には、名義変更を行う前に家庭裁判所による検認の手続きが必要です。
検認とは、家庭裁判所による遺言書の存在および内容の確認のこと
自筆遺言は家庭裁判所での開封が必要で、家庭裁判所以外で開封すると過料の制裁を受けることになります。
公正証書遺言の場合は、検認の必要はありません。
遺産分割協議による名義変更
遺産分割協議による名義変更を行う場合には、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書とは、遺産分割協議で決めた内容を記載した書面のこと
遺産分割協議による名義変更の必要書類を以下に示します。
遺産分割協議による名義変更の必要書類
- 遺産分割協議書(相続人全員自署・実印押印・印鑑証明書添付)
- 被相続人の10歳前後から死亡に至るまでの継続した全ての戸籍謄本
- 被相続人の除住民票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 固定資産税評価証明書
- 相続関係説明図(任意)
遺産分割協議を成立させるためには相続人全員の同意が条件なため、遺産分割協議書には相続人全員の署名押印が必要となります。
また、遺産分割協議書は司法書士等の専門家に作成を依頼することが一般的です
遺産分割協議書の作成費用は、遺産総額の0.5%~1%ほどが相場となっています。
4.ポイントは6ヶ月が勝負
相続した一戸建ての売却において、「6ヶ月」という期間は覚えておきたい大切なポイントです。
この章では6ヶ月を意識した相続と売却の手続きについて解説します。
遺産分割協議は6ヶ月以内には実施しておきたい
遺産分割協議を行う場合、目安として相続後6ヶ月以内には実施するということを覚えておきましょう。
遺産分割協議は、法律上の義務ではないため決められた期限はありませんが、いつまでも分割しないままでいると、ずっと共有状態のままで物件を持つことになるため、通常は早めに遺産分割を行います。
上記のように、相続手続きは最初の3~4ヵ月目は少し忙しいことを頭に入れておきましょう。
4ヵ月を過ぎれば、少し落ち着くことができるため、このタイミングを逃さずに遺産分割協議を行うのが理想です。
特に物件を売却して相続税を納税したい人は、6ヶ月目に名義変更できていれば、その後、急いで売却することで10ヶ月目の納付期限まで納税用の現金を確保することもできます。
遺産分割協議がなされない物件は、二次相続、三次相続によって共有者が膨れ上がり、そのうち多人数共有物件と化してしまう恐れがあります。
多人数共有物件は、将来、共有者全員の売却同意を得ることが難しくなることから、昨今、問題視されています。
共有状態の放置は将来に禍根を残すことが多いため、早めに分割して特定の誰かに引き継がせるようにしてください。
売却期間には6ヶ月を見込んでおきたい
相続した一戸建てを売却するには、名義変更から引き渡しまでの期間を6ヶ月程度は見込んでおきたいところです。

相続後の売却の流れ
以下に、相続物件の売却の流れを示します。
名義変更
相続物件の売却では、まず名義変更を行います。
遺言書があれば一番スムーズですが、ない場合は「法定相続」または「遺産分割協議」によって名義変更方法を決めます。
遺産分割で名義変更を行う場合、遺産分割協議書の作成に1ヶ月、名義変更の登記手続きに0.5ヶ月程度の計1.5ヶ月を見込んでおきます。
不動産会社に査定依頼
その後、不動産会社に価格査定を依頼します。
価格査定後、不動産会社と媒介契約(不動産会社と締結する仲介の契約のこと)を締結して、販売活動をスタートさせます。
価格査定から売却活動の開始までは0.5ヶ月程度です。
売却活動の開始から買主が見つかるまでの期間は、一般的には3ヶ月くらいがかかります。
不動産の売却では、売買契約から引渡まで1ケ月程度空けることが一般的です。
不動産会社への査定依頼ですが、査定額というのは不動産会社がいくらで売れそうなのか判断した価格です。
不動産会社ごとに、実績や算出方法が異なるので、不動産会社によって査定額がバラバラになってしまうことが一般的です。
その為、不動産査定は複数の不動産会社に依頼して、比較検討することがとても大切です。

査定額が高すぎる不動産会社は危険
ただ、複数の不動産会社を自分で調べて、1社ずつ何度も査定依頼を進めるのは大変です。
そんな時に不動産一括査定サイトの活用を強くオススメします。
不動産一括査定とは、売却を検討している不動産の情報を入力するだけで、複数の不動産会社から不動産の売却価格の査定を出してもらうことができるサービスのこと
便利な不動産一括査定サイトですが、筆者が知っているだけでも30はあります。
多くのサイトが乱立し、どのサイトを使えば良いか素人には分かりづらくなってしまっています。
実績や信頼性、提携不動産会社の質など、総合的に判断すると筆者は下記の3つをオススメします。
一括査定サイトのオススメ3選
- 超大手の不動産会社6社に唯一依頼ができる「 すまいValue
」
- NTTグループで安心、一番歴史があり実績抜群の「 HOME4U
」
- 地域密着の不動産会社にも数多く依頼ができる「 イエウール
」
※番外:一括査定と合わせて使うことで効果を発揮する「 SRE不動産(※旧ソニー不動産) 」
実績や信頼性はもちろんですが、上記3サイトは、机上査定での査定依頼が出来る点も大きなポイントになります。
机上査定とは、依頼時に入力した物件の基本情報を基に算出する査定方法で、不動産会社の担当者に物件を見てもらう必要もなく、家に居ながら気軽に査定額を知ることが可能です。
依頼時にメールで査定額を提示して欲しい旨を備考欄で伝えておけば、査定結果や担当者とのやり取りはメールで進むので、営業電話にも悩まずにやり取りすることも可能です。
オススメサイトの併用が鉄則
一括査定サイトごとに提携会社の性質は異なる為、売却を成功するためには、複数の一括査定サイトの併用がオススメです。
サイト選びのポイントとしては、売却物件のエリアに応じて、下記のような使い分けがいいでしょう。
所在地別地域毎のおすすめ
対象の物件種別
おすすめポイント
物件所在地に応じたおすすめの使い方
提携会社数・特徴
サイト名 | 提携会社数 | 特徴 | 公式サイト |
---|---|---|---|
![]() | 大手不動産6社 ※小田急不動産、住友不動産販売、野村の仲介、三菱地所ハウスネット、東急リバブル、三井のリハウス | ・大手不動産6社にまとめて査定依頼できる ※この6社に依頼できるのはすまいValueのみ | 公式サイト |
![]() | 1,300社以上 | ・NTTグループで安心、実績も抜群 ・フリーダイヤルの相談窓口あり ・大手、中堅、地域密着の会社にバランスよく依頼できる | 公式サイト |
![]() | 1,600社以上 | ・地方や田舎に強い | 公式サイト |
![]() | 1,800社以上 | ・匿名査定対応 ・地方含めて対応エリアが広い | 公式サイト |
![]() | 2,000店舗以上 | ・不動産メディア認知度No.1 ・最大10社から一括査定可能 ・不動産会社の特徴で選べる | 公式サイト |
2,500店舗以上 | ・マンションに特化 ・賃貸も同時査定可能 | 公式サイト | |
![]() | 1,700社以上 | ・サポート体制が充実 ・様々な物件種別に対応 | 公式サイト |
![]() | 約700社以上 | ・収益物件に特化 ・最大10社から一括査定可能 | 公式サイト |
最終的な引き渡し
買主からの売買代金の入金は引渡時点となります。
よって、一戸建てを売却して現金に換えるまで、6ヶ月程度を見込んでおくことが必要です。
5.相続移転登記前に売却する場合の必要書類
相続した一戸建ては、名義変更を行った後に売るのが原則ですが、やむを得ない事情により相続移転登記前に売却を開始することがあります。
相続移転登記前に売る場合は、買主に対して全相続人が確定できる書類を用意しておくことが必要です。
全相続人が確定できる書類を示せば、後から隠し子のような相続人が現れるリスクがなくなるため、売主が明確となり安心して売買の話を進めることができるようになります。
全相続人が確定できる書類とは、以下の書類などです。
全相続人が確定できる書類
- 戸籍謄本
- 除籍謄本
- 改製原戸籍謄本
既に分割が決まっており、まだ未登記の状態であれば、「遺言書」または「遺産分割協議書」を買主に示しながら売買の話を進めていく方法もあります。
分割予定の物件は、移転登記の完了をもって買主と売買契約を締結するのが一般的です。
6.一戸建て売却に必要な書類
名義変更完了後の一戸建てを売却するには、以下の書類が必要です。
売却に必要な資料
- 登記識別情報通知書※
- 印鑑証明書(3ヶ月以内に発行のもの)
- 住民票
- 固定資産税評価証明書
- 免許証等の本人確認書類
- 固定資産税および都市計画税の納税通知書
- 土地の実測図(任意)
- 土地の境界確認書(任意)
- 土地の越境の覚書(任意)
- 建物の設計図書(任意)
- 建物の建築確認通知書および検査済証(任意)
※名義変更の際、登記名義人となった申請人に対し法務局から渡される書類です。
その他、引渡時には「鍵」と「実印」が必要となります。
売却に必要な資料は、不動産会社から指示がありますので、一つ一つ確認しながら準備するようにしてください。
まとめ
相続した一戸建てを売却するときの必要書類について解説してきました。
一戸建てを相続したときは、相続放棄は「相続開始があったことを知った日から3ヶ月以内」、相続税の申告と納付は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」が期限となります。
相続した一戸建てを売却する場合には、所有者を明確にするために原則として名義変更が必要です。
名義変更に必要な書類は、「法定相続」「遺言」「遺産分割協議」によって異なる部分があります。
遺産分割協議に期限はありませんが、相続後から概ね6ヶ月以内に行っておくことが目安です。
売却の必要書類が把握できたら、早速に売却に着手してみましょう。