親が亡くなって実家の戸建てや土地、マンションなどの不動産を相続したら、その後どのように手続きを進めたら良いのでしょうか?
相続は人生で何回もあるものではありませんので、サッパリ何をしたらいいのかわからない人がほとんどだと思います。


まずは誰がもらうのかを確定しなければなりませんし、それが決まったら「名義変更(相続登記)」も必要です。
今回は、不動産相続の一連の流れをわかりやすく解説します。
【執筆・監修】元弁護士
福谷陽子
在学中に司法試験に合格。2004年に弁護士登録し、陽花法律事務所を設立。弁護士現役時代は、不動産案件に対して積極的な取り組み。例えば、破産管財事件のマンション任意売却や賃貸借の明け渡し請求交渉、訴訟や強制執行、競売や共有物分割、さらには遺産相続案件、不動産投資詐欺への対応など。
資格司法試験合格、簿記2級
1.不動産を相続したらやるべき5ステップ


不動産を相続したら、次のような5つのステップで手続を進めましょう。
不動産相続したらやるべき5ステップ
- ステップ1.遺言書の有無を確認
- ステップ2.相続人の調査
- ステップ3.相続財産調査
- ステップ4.遺産分割協議
- ステップ5.遺産分割協議書の作成
それぞれ具体的に見ていきましょう。
ステップ1.遺言書の有無を確認
まずは遺言書がないかどうか確認します。
自筆証書遺言は被相続人(亡くなった人)の使っていた机や棚、貸金庫などに保管されているケースがよくあります。
公正証書遺言であればお近くの交渉役場で検索して探せるので、訪ねて行って調べましょう。
公証役場一覧はコチラから探せます。
ステップ2.相続人調査
遺言書ですべての相続方法が決められていたら、その通りに遺産を受け継ぐので相続人を調べる必要はありませんが、遺言書がなかったら「法定相続人」を調べなければなりません。
不動産を相続したら、法定相続人が全員参加して遺産分割をしなければならないからです。
協議をしないと誰が不動産を相続するか決められません。
相続調査するときには、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本を集めます。
本籍地の役所に行くか郵送で申請して順番に集めていきましょう。
ステップ3.相続財産調査
次に、遺産内容にどのようなものがあるか調べます。
不動産以外にも預貯金や株式、投資信託や骨董品、貴金属、時計などの動産、自動車などがあるでしょうから漏れなく探しましょう。
ステップ4.遺産分割協議
相続人と相続財産(遺産内容)が確定されたら、相続人が全員参加して遺産分割協議を行います。
そこではじめて、誰が不動産を取得するかを決めることができます。
不動産の分け方には以下の3種類があります。
パターン1.現物分割

現物分割
不動産を誰か1人の相続人が取得したり、土地を分筆して複数の相続人がそれぞれの所有物として取得したりする方法です。
パターン2.代償分割

代償分割
不動産を誰か1人の相続人が取得して、他の相続人に代償金を支払う方法です。
パターン3.換価分割

換価分割
不動産を売却し、代金を相続人で分配する方法です。
遺産分割協議では、不動産の相続方法について、上記のいずれかの方法で合意する必要があります。
ステップ5.遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が整ったら「遺産分割協議書」を作成します。
これは、合意した内容をまとめた契約書のような書面です。
下記サンプルです。ひな形を用意しておりますので、コチラからDLできます。
遺産分割協議書
被相続人 高野太郎
本籍 東京都新宿区〇〇 ○丁目○番
最後の住所 東京都新宿区〇〇 ○丁目○番○号
生年月日 昭和30年10月1日
死亡年月日 平成31年2月20日
上記被相続人の相続について、妻高野花子、長男高野一郎、次男高野次郎は、遺産分割協議を行い、次のとおり合意した。
1 相続人高野花子は、次の不動産を取得する。
(1)土地
所在 東京都新宿区〇〇 ○丁目
地番 ◯番◯
地目 宅地
地積 250.00㎡
(2)建物
所在 東京都新宿区〇〇 ○丁目
家屋番号 ◯番◯
種類 木造
構造 瓦葺2階建
床面積 1階 65.35㎡
2階 60.50㎡
2 相続人高野一郎は、次の預金債権を取得する。
東京銀行新宿本店
定期預金(口座番号〇〇〇〇〇〇)
2000万円
普通預金(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)
500万円
3 相続人甲野次郎は、次の預金債権を取得する。
新宿銀行西新宿支店
定期預金(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)
1500万円
〇〇株式会社 株式 〇〇株
4 本協議書に記載のない遺産や後日に存在が判明した遺産があれば、高野花子が取得する。
以上のとおり遺産分割協議が成立したので本協議書を3通作成し、各自署名押印のうえ1通ずつ所持する。
平成○○年○月○日
住所 東京都新宿区〇〇 〇丁目○番○号
相続人 高野花子 印
住所 埼玉県市 〇〇市〇〇 ○丁目○番○号
相続人 高野一郎 印
住所 千葉県千葉市〇〇 ○丁目○番○号
相続人 高野次郎 印
誰がどの遺産をもらうのかを1項目ごとに記載して、相続人全員が署名押印します。
押印は実印で行いましょう。(書式が必要ならおっしゃってください)
2.不動産名義変更(相続登記)の3つの方法、必要書類とかかる費用


方法1.遺産分割協議書によって登記
相続人間で遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書を使って登記名義を変更します。
名義変更の登記は、法務局に申請して行います。
必要書類は以下のとおりです。
- 遺産分割協議書(自分達で作成します)
- 被相続人の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類(本籍地の役場から取り寄せます)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票(居住地の役場で取得します)
- 相続する人の戸籍謄本、住民票(戸籍謄本は本籍地、住民票は居住地の役場で取り寄せます)
- 相続人全員の印鑑証明書(居住地の役場から取り寄せます)
- 不動産全部事項証明書(法務局で取得します)
- 固定資産評価証明書(不動産のある市区町村役場で取得します)
- 相続関係説明図(自分達で作成します)
登記申請書を作成して書類を一緒に提出すれば、遺産分割協議で決まった相続人に名義変更できます。
方法2.遺言書で登記
遺言があれば、遺言書通りに名義変更できます。必要書類は以下のとおりです。
- 遺言書(残されていたもの)
- 被相続人の戸籍謄本(本籍地のある役場で取得します)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票(居住地の役場で取得します)
- 不動産を受け継ぐ人の戸籍謄本、住民票(戸籍は本籍地、住民票は居住地の役場で取り寄せます)
- 不動産全部事項証明書(法務局で取得します)
- 固定資産評価証明書(不動産のある場所の役場で取得します)
- 相続関係説明図(自分達で作成します)
登記申請書を作成して上記を法務局に提出すれば、遺言によって指定された人に名義変更できます。
方法3.共有登記
遺言書がなく遺産分割もできていない状態でも、「共有登記」という方法で名義変更ができます。
共有登記とは、とりあえず法定相続人全員が不動産を共有する登記です。
相続開始と同時に不動産は法定相続人の共有になるので、遺産分割が済むまで共有にしておくことができるのです。共有登記に必要な書類は以下の通りです。
- 被相続人の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類(本籍地のある役場で取得します)
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票(居住地の役場で取得します)
- 相続人全員の印鑑証明書(居住地の役場で取得します)
- 不動産全部事項証明書(法務局で取得します)
- 固定資産評価証明書(不動産のある場所の役場で取得します)
- 相続関係説明図(自分達で作成します)
登記申請書を作成して上記と共に提出すれば、法定相続人全員の共有名義に書き換えてもらえます。持分割合は法定相続分通りとなります。
相続登記にかかる費用
相続登記をするときには「登録免許税」がかかります。
金額は固定資産評価額の0.4%の金額です。
また戸籍謄本類を取り寄せたり住民票、印鑑登録証明書を取得するのにだいたい1~2万円程度必要です。
司法書士に登記を依頼する場合には、6~10万円程度の司法書士費用もかかります。
登記申請書の書き方
登記申請書を作成するときには、こちらの法務局のサイトからパターンごとの該当書式をダウンロードして、氏名、住所、物件表示などを記載して完成させましょう。
司法書士に依頼できる
相続登記を自分でするのが大変な場合、司法書士に依頼できます。
司法書士に頼んだら、戸籍謄本類の取得から申請まですべてやってくれるので相続人はほとんど何もしなくてもかまいません。
ただし6~10万円程度の費用がかかってきます。
3.不動産の名義変更の注意点
相続した不動産の名義変更をするとき、
- 遺言書
- 遺産分割協議書
- 共有
の3パターンがありますが、この中で「共有」はオススメできません。
不動産を共有すると、共有者全員の合意がない限り長期の賃貸癪や抵当権設定、売却などができなくなってとても不便だからです。
また、将来共有者のうち誰かが亡くなったら、再度の相続が起こってさらに状況が複雑になってしまいます。
不動産を相続したら、できるだけ早く遺産分割を行って不動産を誰かの単独所有に確定しましょう。
4.不動産の名義変更(相続登記)しないとどうなる?


期限はないが、早めに行うべき
不動産の相続登記に「期限」はありません。
また登記しない場合の「罰則」もありません。
ただし登記はなるべく早めに行うべきです。
以下でその理由を説明します。
無権利者が売却する可能性
正しく名義人が登記されていない不動産は、誰の所有物かわかりません。
そうなると、無権利の人が勝手に「私の不動産です」と言って他人に売却してしまうおそれがあります。
今後は法改正(2019年7月1日施行予定)によって相続人でも登記をしないと第三者に権利を主張できなくなるので、先に無権利の人から買い取った人が登記してしまったら、相続した不動産を奪われてしまうおそれがあります。
将来の相続の際に混乱する
不動産の相続登記をしないまま今の所有者も死亡してしまったら、その子どもたちが不動産を相続します。
そのとき、祖父の名義のままになっていたら「一体誰が不動産の真の所有者なのか」調べなければならず手間がかかります。
また祖父から父、父から子どもへの2回分の登記が必要になって非常に煩雑です。
子供達に手間をかけさせないためにも、早めに相続登記しましょう。
5.一軒家、マンション、土地の相続の違い
不動産には一軒家、マンション、土地などの種類があります。
相続するときのの違いは何なのでしょうか?
分筆できるのは土地のみ
この中で、「分筆」によって現物分割できるのは土地だけです。
分筆とは土地を分けること
建物は分筆できないので、誰か1人が取得するしかありません。
-
土地を半分に分筆・分割して売却する場合の手順と注意点を徹底解説
土地活用が上手くできていない、資金が必要になったなど、人はさまざまな理由で土地を売却します。 なかには、相続時に相続税の ...
続きを見る
相続税評価方法が異なる
相続税評価方法も全く異なります。
土地の場合には「相続税路線価」という専門の指標によって計算します。
一方建物の評価は「固定資産評価額」です。
また宅地の場合には「小規模宅地の特例」という特例が適用されて一定限度まで相続税評価が下がります。
マンションの場合、建物の評価は固定資産評価、敷地部分については相続税路線価で評価して合算した金額が相続税評価額となります。
路線価や固定資産評価額については下記記事をご確認ください。
-
路線価とは?路線価図の見方と目安と相続性評価の計算例
路線価とは、相続や贈与時の土地の評価額を求めるために道路(路線)に付された価格 路線価とは、一般的に国税庁のホームページ ...
続きを見る
-
固定資産税評価額とは?目安やチェックの仕方・不服申立てを解説
固定資産税評価額とは、固定資産税や不動産取得税、登録免許税等の税金を算出するための根拠となる土地や建物の価格 市町村長が ...
続きを見る
6.相続税申告納税の期限は開始してから10カ月


相続した不動産やその他の遺産価額が高額な場合、相続税が発生するケースがあります。
その場合、「相続開始を知ってから10か月以内」に相続税の申告と納税が必要です。
この期間内に申告だけではなく支払までしないといけないので、急ぎましょう。
また遺産分割協議が成立していなくても、期間内に申告納税する必要があります。
実務的には法定相続割合を前提に相続税の申告納税を行い、後に更正請求という修正の手続きを行って払いすぎた分を還付してもらうなどして対処しています。
配偶者が相続するときには法定相続分か1億6千万円分の相続分までには相続税がかからないという控除制度があるので、多くのケースで相続税は発生しません。
この控除制度を利用するにも期限内に遺産分割協議を行って申告納税する必要があります。
7.不動産の相続税を節税するオススメの2つの方法


方法1.小規模宅地の特例
土地には「小規模宅地の特例」という相続税評価の減税制度があります。
居住用の建物や賃貸以外の事業用に使われている建物の敷地の宅地の場合、一定面積(居住用の場合330㎡、事業用の場合400㎡)まで80%も相続税評価を下げてもらえるものです。
貸付用地の場合でも、200㎡まで50%の評価減となります。特別な手続は不要で、相続税申告の際、普通に計算して申告すれば適用できます。
詳細は下記記事をご確認ください。
-
色々な補正がある土地の相続税評価額の基本的な計算方法と節税特例
土地を相続する際は、相続税の評価額を算出する必要があります。 土地には、色々な形や接面状況、高低差等があり、きちんと補正 ...
続きを見る
方法2.賃貸に出す
不動産を所有している場合、賃貸に出すと大きく相続税評価を下げられます。
賃貸物件は「借地権価格」や「借家権価格」を引くことができるからです。
たとえば賃貸アパートを経営している場合、そのまま土地を所有している場合と比べて約2割減となりますし、建物部分は約3割減となります。
活用していない不動産があったら、生前から活用しておくことが相続税の節税にもつながります。
まとめ
不動産を相続したとき、まずは遺言書を探すところから始めて1つ1つ手続を進めていきましょう。
誰も不動産を欲しない場合には売却してしまうとスッキリ公平に分けられるのでオススメです。
今回の記事を参考に、スムーズに不動産の相続手続きを行いましょう。