個人の方が不動産を売却しやすくするため、国は様々な税政策を実施しています。
個人がマイホームを売却や買換えした時によく使われる特例は下記5つがあります。
譲渡益 | 譲渡の種類 | 特例 |
---|---|---|
譲渡益が生じる場合 (所得税が発生) | 売却 | 3,000万円の特別控除 (No.3302 マイホームを売ったときの特例) |
売却 | 所有期間10年超のマイホームを譲渡した場合の軽減税率の特例 (No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例) |
|
買換え | 特定のマイホームの買換え特例 (No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例) |
|
譲渡損が生じる場合 (所得税が戻ってくる) | 売却 | マイホームに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 (No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合) |
買換え | マイホームの買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 (No.3370 マイホームを買換えた場合に譲渡損失が生じたとき) |
今回は1つ目の「マイホームを売ったときの特例」について説明します。
この制度を知ることで、あなたは安心して不動産を売却することが可能になります。
国税庁のHPを見れば、細かく説明がありますが、少し難しいと感じる方が多いと思います。
ですので、主に初心者に向けて噛み砕いて説明しています。
この記事を読むことで、あなたが特別控除の制度を理解し、無駄な税金を払わなくて済むようになることを約束します。
ザックリ結論をまとめると
- 購入した時よりも売却金額が高い(売却金額>購入金額)場合は、税金が発生する可能性がある
- ただし、住居や相続した不動産を売る場合、3,000万円特別控除があり、売却金額-購入金額-3,000万円>0になっていなければ税金が発生しない
※つまり買った時よりも、3,000万円以上高く売れなければ税金が発生しない - 3,000万円特別控除を受けるためには、確定申告が必要になる
- 不動産を売る前に家の適正価格を把握しておくのが大事
※詳細は「不動産を売る前なら「一括査定」を使って適正価格を把握する」をご確認ください。
※当記事では、居住用財産とマイホームと同じ言葉として記載しています。
マイホームを譲渡した場合の特別控除と適用要件
初めに、個人が不動産を売却した時に発生する所得税の原則から解説します。
所得税は、譲渡益(譲渡所得がプラス)が発生するとかかります。
まずその譲渡所得の計算方法についてお伝えします。
課税譲渡所得の基本式
不動産を売却した時の課税譲渡所得の計算は以下の式になります。
譲渡所得 = 譲渡価額(売却額)-取得費(購入額)-譲渡費用(売却に掛かった経費)
※取得費とは土地は購入価額、建物は購入価額から減価償却費を控除した額
※譲渡費用は仲介手数料等の売却に要した費用
課税譲渡所得がプラスの場合は税金が発生する
不動産の価格が取得した当時よりも値上がりしていれば、課税譲渡所得がプラスとなるため、所得税が発生します。
一方で、不動産の価格が取得した当時よりも値下がりしていれば、課税譲渡所得がマイナスとなるため、所得税は発生しません。
バブル崩壊以降に購入した不動産は、ほとんどのケースで不動産が値下がりしていることが多い。
そのため課税譲渡所得はマイナスとなります。
しかしながら、1900年代に購入した不動産や都心部の不動産であれば、課税譲渡所得がプラスとなっている可能性も十分ありえます。
特別控除を適用するとほとんどの不動産は課税されなくなる
しかしながら、個人がマイホーム(居住用財産)を売る度に、いちいち所得税が発生してしまうと、売却の足かせになってしまいます。
そこで国としては、個人がマイホームを売却しやすくするために、さらに3,000万円を課税譲渡所得から控除する施策を設けています。
マイホームを売却した場合の課税譲渡所得は以下の式になります。
譲渡所得 = 譲渡価額(売却額)-取得費(購入額)-譲渡費用(売却に掛かった経費)-3,000万円
※取得費とは土地は購入価額、建物は購入価額から減価償却費を控除した額
※譲渡費用は仲介手数料等の売却に要した費用
つまり、購入したときよりも3,000万円以上高く売れた場合は、課税譲渡所得がプラスになり所得税が発生する可能性があるということです。
3,000万円特別控除の要件に合致していれば、ほとんどのケースでは課税譲渡所得はマイナスとなり、不動産を売却しても所得税は発生しないのです。
3,000万円の特別控除の適用要件
今回の特例はすべてのマイホームが適用させるわけではありません。
特例が適応できる条件は下記の通り。
- 自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。なお、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
(注) 住んでいた家屋又は住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の2つの要件全てに当てはまることが必要です。
- イ その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- ロ 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。
- 売った年の前年及び前々年にこの特例(「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」によりこの特例の適用を受けている場合を除きます。)又はマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
- 売った年、その前年及び前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと。
- 売った家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。
- 災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。
特別な関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。※出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」より
逆に適用できないものは下記の通り。
- この特例を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
- 居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
- 別荘などのように主として趣味、娯楽又は保養のために所有する家屋
※出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」より
適応受けるためには確定申告と必要書類
3,000万円の特別控除を受けるためには必ず確定申告をする必要があります。
確定申告は売却した翌年2月16日から3月15日までの間に行います。
通常の確定申告書とは別に下記2つの書類を添付する必要があります。
- 除票住民票
- 譲渡所得計算明細書
※参考:国税庁「居住用財産を譲渡した場合の特例適用チェック表」より
除票住民票は、市区町村役場で入手ができます。
譲渡所得計算明細書は、国税庁のHPよりダウンロードできます。
書き方が分からなければ、確定申告時に税務署にいる無料相談員に聞きましょう。
軽減税率のダブル適用も可
また3,000万円の特別控除は、「所有期間10年超のマイホームを譲渡した場合の軽減税率の特例」とセットで適用することができます。
譲渡益 | 譲渡の種類 | 特例 |
---|---|---|
譲渡益が生じる場合 (所得税が発生) | 売却 | 3,000万円の特別控除 |
売却 | 所有期間10年超のマイホームを譲渡した場合の軽減税率の特例 | |
買換え | 特定のマイホームの買換え特例 | |
譲渡損が生じる場合 (所得税が戻ってくる) | 買換え | マイホームの買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 |
売却 | マイホームに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 |
例えば、戦後すぐに購入したような相当に古い不動産であれば、たとえ3,000万円の特別控除を適用しても、課税譲渡所得がプラスになっている可能性が有ります。
それでも所有期間が10年以上であれば、税率を低くしてくれる特例が適用され、なるべく所得税が発生しないような仕組みとなっているのです。
所有期間10年超のマイホームを譲渡した場合の所得税及び住民税の税率は以下のようになります。
課税譲渡所得金額 | 所得税 | 住民税 | 合計税率 |
---|---|---|---|
3,000万円特別控除後の譲渡所得のうち6,000万円以下の部分 | 10.21% | 4% | 14.21% |
3,000万円特別控除後の譲渡所得のうち6,000万円超の部分 | 15.315% | 5% | 20.315% |
※平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付することになります。
以上、ここまで適用要件について見てきました。
それでは次に気になる平成28年の法改正で新たに導入された相続した不動産の3,000万円特別控除の適用要件について見ていきましょう。
相続財産を売却した場合の3,000万円の特別控除の要件
相続した被相続人の居住用家屋を譲渡した場合、以下の要件に合致すると、3,000万円の特別控除を受けることができます
3,000万円の特別控除を適用する場合、「売主」「家屋」「譲渡に関すること」の3つにそれぞれの要件があります。
売主の要件
被相続人居住用家屋及び相続開始直前においてその被相続人居住用家屋の敷地のように供されていた土地等を相続又は遺贈により取得した「相続人」であること
遺産分割協議前で相続人が共有状態となっている際に売却する場合は、共有者全員の同意が必要になります。
売却のタイミングは、相続の開始のあった日以後、3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に売却したものに限られます。
既に相続している物件は、平成25年1月2日以後の相続から適用することが可能です。
家屋の要件
売却する家屋には、以下の要件が必要になります。
- 相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋であること。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること。
- マンション以外の家屋であること。
- 相続開始直前においてその被相続人以外に居住したいた者がいなかったこと。
- 相続のときから譲渡のときまで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていなかったこと。
さらに、取壊して更地を売却する場合は、上記要件に加え、以下の要件も加わります。
- 相続のときから取壊しのときまで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていなかったこと。
- 土地が相続のときから譲渡のときまで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていなかったこと。
ここでポイントとなるのが、相続空家を一度でも事業や賃貸住宅等で活用してしまうと、3,000万円の特別控除の特例が受けられなくなるという点。
相続空家を有効活用してしまうと、3,000万円の特別控除を適用できる権利を失います。
相続空家の有効活用を考える時は、必ず売却の選択肢も含めて検討するようにしましょう。
譲渡する際の要件
相続空家の3,000万円特別控除の対象となる売却は、以下の要件を満たす必要があります。
- 譲渡価額が1億円以下であること。
- 家屋を譲渡する場合、その譲渡時において、その家屋が現行の耐震基準に適合するものであること。
ここで、1つ大きなポイントがあります。
譲渡する家屋は「現行の耐震基準に適合するもの」となっていますが、家屋の要件の1つに「昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること」という条件があります。
現行の耐震基準とは、新耐震基準を表します。
新耐震基準に適合する建物とは、昭和56年6月1日以降に建築確認を受けた建物であるといのが原則です。
そのため、原則的には昭和56年5月31日以前に建築された家屋は、現行の耐震基準に適合していません。
現行の耐震基準に合わせるためには、売却する前に耐震リフォームが必要になります。
ただし、昭和56年以前の建物は、築35年以上経過しているため、そのような木造住宅をわざわざ耐震リフォームまでして売却するのは非現実的。
新耐震基準に満たない建物は更地にして売却することが多い
新耐震基準に満たない建物は、現実的には取壊して更地にして売却することになります。
本特例は、平成27年2月に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」と連動して追加されたため、意図としては空家をどんどん取り壊すことを誘導しています。
国としては、不要になった相続空家はなるべく壊して欲しいということを制度で伝えているのです。
固定資産税については、毎年1月1日がどのような状態になっているかで、特例の適用の有無が決まります。
1月1日時点で小規模住宅用地の特例が適用されており、その年内に取壊して、その年の12月31日までに売却してしまえば、土地の固定資産税は低いままの状態で売却が可能です。
遠隔地にある相続財産はどのようにして売却する?
東京で働いているサラリーマンの方が、地元の親の不動産を相続するケースは良くあります。
もう地元には戻らない方も多いため、地元の不動産は売却する方も少なくありません。
相続財産においても3,000万円の特別控除が適用できるようになったため、今後はますます東京在住の方が遠隔地の不動産を売却するようなケースが増えてきます。
遠隔地である地元の不動産を売却する場合、地元の不動産会社を知らないケースが多いです。
また相場観も分からないため、いくらくらいで売れるのか見当もつきません。
まとめ
不動産を売却した時の3,000万円特別控除について解説してきました。
まずは、これから売却する不動産が特別控除の特例に適用するかどうか確認してみましょう。