アパート経営をする以上、「一括借上げ(サブリース)」については、しっかりと基礎知識を身につけるべきです。
最近、某ハウスメーカーに対して、一括借上げの集団訴訟が話題となっています。
ただ、この論争は、過去、何度もオーナー側が敗訴している事案でもあり、オーナー側の主張がどこまで認められるのかは、甚だ分かりません。
こんな悩みをスッキリ解消!
- この先、一括借上げを続けていくことが不安だ
- ハウスメーカーに騙された
- 一括借上げで家賃減額は正当な主張なのか知りたい
そこで今回の記事ではアパート経営における「一括借上げ(サブリース)」にフォーカスしてお伝えいたします。
この記事を読むことで、「一括借上げ」にはどういうリスクが潜むものなのか知ることができます。
実は危険!?一括借上げシステム
一括借上げとは
最初に厳しい言い方をしてしまうと、今さら一括借上げでハウスメーカーに対し腹を立てているオーナーさんは「不勉強」です。
最近、某ハウスメーカーに対し、アパートのオーナーが一括借上げに関する集団訴訟を起こしています。
ところが、業界関係者からすると「何を今さら」というのが正直な感想です。
一括借上げとは、アパート等の一棟全体をサブリース会社が一括で借上げ、各戸の入居者を転貸するという仕組み
各戸は、空室が発生の有無を繰り返しますが、オーナーはサブリース会社とは一本の賃貸借契約を締結しているため、各戸に空室が発生してもサブリース会社とオーナーとの賃料は直接変動しないという仕組みになります。
一括借上げについては、「サブリース契約」「家賃保証」「空室保証」等の名称で呼ばれています。
各戸に空室が発生しても、瞬間的に家賃が連動して落ちるわけではないため、「家賃保証」という言葉は間違っているわけではありません。
しかしながら、多くのオーナーさんが、「家賃保証」という言葉を、「家賃はずっと下がらない」と誤解しています。
ところが、実際、一括借上げではサブリース会社からの家賃減額の要求があります。
その要求があまりにも激しいため、「騙された」、「こんなはずじゃなかった」ということになり、問題となっているのです。
結論からすると、サブリース会社からの家賃減額要求は正当な権利であり、法律的にも認められています。
一括借上げで家賃減額できることは決着済み
実は、オーナーさんがサブリース会社に対して憤慨するようなことは、今に始まったことではありません。
そもそも一括借上げという仕組みは、バブル時代にかなり流行った契約で、多くの土地オーナーがサブリース契約を使ってアパートや商業施設、オフィスビル等を建築しました。
当時の建築会社の言い方も、今と同じです。
「当社で一括借上げを致しますので、安心ですよ。建物を建てませんか?」という営業手法でした。
ところが、バブルが崩壊し、家賃も大幅に下落したことから、家賃保証をしていた多くのサブリース会社が経営危機に至る状況が相次ぎました。
当時も、サブリース会社側からの減額要求が盛んに行われ、裁判への発展する事案が頻発しました。
その結果、サブリースやオーダーリースと言った賃貸借契約の事案に関し、平成15年~平成20年にかけて、多くの最高裁判例が出されました。
この時期に出された最高裁判例は、一括借上げの契約の方向性を決定づけたとても重要な判例ばかりです。
最高裁の判例は、法律に書いていない部分を補完するような役割を果たすため、最高裁判例によって、新たな条文が加わったと解釈してもおかしくありません。
平成15年~平成20年にかけて出された最高裁判例では、ほとんどが借手側の要求を認めています。
サブリース会社による家賃減額要求も正当なものとして認められました。
実はこの判例が出る以前は、サブリース会社も家賃減額要求には消極的でした。
しかしながら、最高裁判例が出た以降は、サブリース会社による家賃削減は当然の権利となったため、多くのサブリース会社が強気で減額交渉をするようになっています。
現在は、「一括借上げは家賃が下げられる」と裁判所が認めてから10年以上経過しています。
つまり、一括借上げは家賃が下がるという知識は、もはや「知らない方が悪い」というレベルの知識です。
サブリース会社は、当然、判例でサブリース会社の家賃減額要求が正当な権利であることを知った上で、合法的に減額を要求しています。
今さらサブリース会社に対して憤慨したり、オロオロしたりするのは、やはりアパート経営者の不勉強と言わざるを得ません。
こらからアパート経営をされる方は、一括借上げは安心と考えるのではなく、一括借上げは賃料下落リスクもあるということを視野に入れながら検討する必要があります。
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以上、ここまで実は危険!?一括借上げシステムについて見てきました。
では、一括借上げの問題点を見る前に、一応、一括借上げのメリットをサラッと触れておきます。
一括借上げの3つのメリット
メリット1.収入が安定する
一括借上げは、サブリース会社と賃貸借契約が一本であるため、各戸に空室が生じても直接賃料がすぐに減額されるわけではありません。
ただし、空室が埋まっても収入は上がりません。
一括借上げは、空室の有無に関わらず、収入が安定しているというのが最大のメリットになります。
メリット2.管理が楽
一括借上げは、オーナーの直接の契約者はサブリース会社のみです。
そのため、オーナーはサブリース会社のみを相手にすれば良いため、管理が楽です。
入居者からのクレーム対応や空室の募集、入居者との契約、原状回復の確認等は、全てサブリース会社が行ってくれます。
メリット3.初心者でもアパート経営が可能
一括借上げは、本来オーナーがやるべき部分を、全てサブリース会社が間に入って行ってくれます。
そのため、オーナーは基本的にやることはほとんどありません。
アパート経営の知識や、借地借家法の法律知識等を全く知らなくても、立派なアパート経営をすることが可能です。
以上、ここまで一括借上げの3つのメリットについて見てきました。
このようにメリットのある一括借上げですが、なぜ上手くいかないオーナーが多いのでしょうか。
そこで次に一括借上げでは上手く行かない3つの理由について見ていきます。
一括借上げでは上手く行かない3つの理由
理由1.家賃の減額がある
繰り返しますが、アパートの空室が増加すれば、サブリース会社より家賃減額の申入れがあります。
ハウスメーカーの営業マンが「家賃は下がらないですよ」と言ったとしても、それは何の保証にもなりません。
サブリース契約(一括借上げのこと)と賃料減額請求に関しては、最高裁平成15年10月21日第3小法廷判決によって、認められています。
一度、最高裁判例が出てしまうと、司法の判断の基礎が確定します。
そのため、オーナーが不服に思ってサブリース会社を訴えても、判断の方向性がひっくり返ることはありません。
いざ裁判になれば、ハウスメーカーの営業マンが「家賃は保証します」と「言った・言わない」の議論は、何の意味も持ちません。
サブリース会社はハウスメーカーの関連子会社となっていることが多く、建築当時の営業マンとは担当も別です。
過去の経緯はお構いなしに、当然の権利として家賃減額の申入れがあります。
一括借上げでは、家賃や空室は保証されているわけではありません。
間にサブリース会社を挟んでいるだけであり、オーナーは間接的に空室リスクを負っていることになります。
一括借上げは、「家賃保証」や「空室保証」という誤解を生むような言葉で表現されますが、家賃も空室も保証されているわけではないのです。
理由2.修繕工事業者が指定される
ハウスメーカーは、アパートを建てることで、①新築工事で儲ける、②サブリースで儲ける、③修繕工事で儲けるという3段階のキャッシュポイントがあります。
アパート建築はハウスメーカーにとっては、とても良いビジネスモデルです。
修繕工事業者も指定であることから、修繕費は割高です。
ハウスメーカーの方では、サブリース会社と修繕をセットにしている会社が多いです。
サブリースを解約しようとすると、「それなら今後修繕対応は致しません」と半分脅してくるような会社もあります。
基本的には、世間ではアパートを自主管理しているオーナーさんもたくさんいますので、修繕を他の会社に出すことは不可能ではありません。
しかしながら、ハウスメーカーに「おんぶにだっこ」で来てしまった人は、ハウスメーカーから見放されることを恐れる人が多いです。
そのため、修繕工事をきっかけとして、賃料の減額請求を仕方なく了承してしまうオーナーさんもいます。
一括借上げを止める場合は、修繕工事の指定も最終的に断ち切る覚悟があります。
修繕の工事業者を切り替える場合、オーナー側で竣工図などの図面はきちんと保管しておく必要があります。
次の業者に引き継ぐには、図面が命です。
また竣工図に変更が生じるような修繕をしている場合は、その工事の後の図面も必要です。
いずれにしても、オーナーとしては図面管理をきちんとしておくことは、基本事項です。
修繕工事業者は、いつでも第三者に切り替えができるような準備をしておくことが重要になります。
理由3.経営が他人任せになる
現在、アパート経営で成功している多くの人は、サブリースを行っていません。
自ら空室リス戸を取り、創意工夫をしながら満室を維持するために日々格闘しています。
成功しているアパート経営者は、一括借上げを行っているアパートが、何も工夫をしていないことを良く知っています。
そのため、直接賃貸しているアパート経営者は、様々な入居者サービスを行うことで、満室を維持しています。
筆者の知っているオーナーさんは、アパートの入居者をランク付けし、顧客対応を変えています。
賃料が高くて長く入居してくれている入居者を優良顧客として位置付けています。
優良顧客から、要望やクレームがあった場合、オーナー側に多少の出費が伴ったとしても、真っ先に対応しています。
一方で、つい最近入った入居者に対しては、一律の対応を行い、特別サービスは施していません。
このオーナーのアパートは退去率がとても低く、常に満室に近い状態で稼働し続けています。
これは、ちょっとして工夫ですが、アパート経営を客商売と考えれば、ある意味当り前の対応です。
長く住んでくれる入居者は、店で言えばリピーターであり、超優良顧客です。
経営感覚を持っているアパートオーナーであれば、顧客のランク付けのような発想も出てきます。
ところが、一括借上げをしてしまうと、顧客の顔が見えないばかりか、経営感覚すら生まれません。
ひょっとしたら、サブリース会社が、優良顧客をムゲに扱っているかもしれません。
一括借上げとは、アパート経営を他人に任せてしまうことであるため、自分の思い通りにならなくて当然なのです。
アパートを建てて一括借上げを行うと、アパート経営をしている気になりますが、実際には経営の大部分は全てサブリース会社が行っています。
一括借上げをすると、オーナーはアパート経営者というよりは、ほぼ「出資者」の立場になります。
お金ばかり要求される出資者にならないためには、自分が経営者になる必要があるのです。
以上、ここまで一括借上げでは上手く行かない3つの理由について見てきました。
では、一括借上げにおけるサブリース会社の位置づけとは、そもそもどのような立場なのでしょうか。
一括借上げの法的位置づけ
契約は賃貸借契約書
一括借上げをする場合、サブリース会社とは法律上、何者なのかということを理解しておく必要があります。
一括借上げは、「借上げ」という名がついている通り、サブリース会社がアパート全体を借ります。
つまり、サブリース会社は賃借人です。
サブリース会社は各戸の入居者に転貸しますので、転貸人にもなります。
各戸の入居者は転借人です。
言葉が錯綜しないように、念のため、下表に定義します。
立場 | 法律的な呼び名 |
---|---|
オーナー・貸している人・建物所有者 | 賃貸人 |
サブリース会社 | 賃借人・転貸人 |
各戸の入居者 | 転借人 |
サブリースの契約は、「賃貸借契約書」を締結することで行います。
「共同事業締結書」とか「事業パートナー協定書」等ではなく、普通の「賃貸借契約書」です。
つまり、サブリース会社はアパートオーナーの共同事業者でも何でもありません。
ただの「借主」であるということがポイントです。
借地借家法の借主
借主や貸主等の賃貸借に関する法律の規制は「借地借家法」という法律によって、それぞれの権利・義務が規定されています。
借地借家法が制定された背景には、貸主というのはお金持ちの地主、借主というのは家が買えない貧乏人のような図式があります。
そのため借主を守るような法律がないとお金持ちの貸主がドンドン強くなってしまいます。
そこで、借地借家法では、本来、弱い立場である借主を法律で強固に守っています。
ちょうど、労働基準法が労働者を経営者から守っているようなイメージと近いです。
そのため、法律的な立場は、「借主」の方が強いです。
借地借家法では、本来弱い立場になりがちな借主を手厚く保護する法律構成になっています。
サブリース会社は借主様
一括借上げでは、サブリース会社が「借主」でした。
そのため、法律的な立場では、借主であるサブリース会社の方が強いです。
サブリース会社は共同事業パートナーではないため、対等の立場ではありません。
法律的に守られた強い立場である「借主」様です。
平成15年~平成20年にかけて立て続けに出た最高裁の判例は、この点が十分に議論されました。
サブリース会社は対等な「事業パートナー」なのか、それとも「借主」様なのかという点です。
結果的には、最高裁の判断としては、サブリース会社は「借主」であるという解釈になりました。
借主であるがゆえに、サブリース会社は借地借家法で守られるべき立場にあり、賃料の減額交渉を行っても何ら問題ないのです。
尚、サブリース会社との賃貸借契約は、普通借家契約と呼ばれる賃貸借契約が締結されます。
普通借家契約とは、更新規定があり、借主が強く守られる契約形態
一括借上げと消費税
一括借上げでは、サブリース会社は借主です。
そのため、サブリース会社から入金される金額は、あくまでも家賃になります。
家賃は、住宅なら消費税は発生しません。
住宅以外の店舗やオフィスであれば消費税は発生します。
一括借上げも家賃ですので、消費税は同じ考え方をします。
住宅の一括借上げであれば消費税は発生しませんし、住宅以外の一括借上げであれば消費税は発生します。
以上、ここまで一括借上げの法的位置づけについて見てきました。
それでは借地借家法上、借主となるとどうなるのでしょうか。
一括借上げの家賃減額
賃料増減請求
借地借家法32条では、賃料の増減請求については、以下のように定められています。
(借賃増減請求権)
第32条 建物の借賃が,土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により,土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により,又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは,契約の条件にかかわらず,当事者は,将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし,一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には,その定めに従う。
まず、家賃が近隣同種の建物と比較して、不相当となったときは、「借主」も「貸主」も双方、いつでも家賃の増減は請求できるという点です。
家賃交渉のタイミングは更新に次期に限らず、不相当となったときはいつでも構わないということがポイントです。
そのため、毎年のようにサブリース会社から減額の申入れがある場合もあり、根負けして交渉に応じてしまうということは良くあるケースです。
特約は意味がない
また借地借家法32条の中では、「契約の条件にかかわらず」というフレーズがあります。
例えば、「賃料は一定期間固定とし、減額できないものとする。」というような特約を設けていても、減額できるということです。
「賃料は一定期間固定とし、減額できないものとする。」というような特約は不減特約と呼ばれます。
不減特約は無効です。
さらに、「賃料を3年ごとに5%ずつ増額する」というような特約は自動増額特約と呼ばれます。
自動増額特約も有効ではありません。
「賃料は増額できないものとする」というような特約は不増特約と呼ばれますが、このような借家人に有利な特約は、逆に有効となります。
そのため、サブリース会社との間で締結する普通借家契約においては、賃料の減額を防止するような特約を設けても、実質的には意味がありません。
借主からの賃料減額要求と言うのは、契約でも防ぎようのない要求です。
サブリース契約で家賃を下げられないような特約を結んでも意味がないということを理解しておきましょう。
以上、ここまで一括借上げの家賃減額について見てきました。
このように困った一括借上げであれば、出来ればもう解約したいと思っている人も多いと思います。
一括借上げの解約
解約ではなく立退きになる
繰り返しますが、一括借上げではサブリース会社は「借主」です。
借主であるため、解約するには、いわゆる「立退き」を行う必要があります。
立退きに関しても、借地借家法で規定がされています。
借地借家法では、借主が強力に守られており、立退きには立退料が必要となってきます。
立退きに関する規定は、借地借家法第28条に規定されています。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第28条 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
条文の中で「財産上の給付」と記載がありますが、これが立退料に相当します。
賃貸人から借主を追い出すのは、とてもやっかいです。
借主を退去させるには、正当事由と呼ばれる理由と、それを補完する立退料が必要となるのです。
一括借上げを解約する方法
やっかいなサブリース会社を追い出すのに、立退料が必要になるなど、とんでもありません。
できれば、立退料などは払わずに、出ていって欲しいところです。
そのため、立退料を払わずに、サブリース会社を退去させるには、逆にサブリース会社に「嫌になって出ていってもらう」しかありません。
そこで行うのが「賃上げ交渉」です。
前章で、賃料の増減請求は、借主からも貸主からも、いつでもできるという説明をしました。
サブリース会社を退去させたい場合には、まずはオーナーから賃上げ交渉を行い、先方の「それなら一括借上げは止めます」と言わせるという方法があります。
また、先方から家賃減額請求があった場合は、逆に退去させるチャンスです。
逆に増額要求を返答して、先方に退去の判断を促すようにして下さい。
サブリース会社は借地借家法の借主であるため、簡単には退去させることはできません。
労働基準法で、会社が従業員を簡単にクビに出来ないのと全く同じです。
法律は、本質的に弱い立場である借主を守っています。
立退きのような、借主が路頭に迷うような行為については、借地借家法は強く規制しています。
サブリース会社は一度契約してしまうと、なかなか解約できないということを知っておきましょう。
一括借上げ解約のメリット
ちなみに、サブリース会社を立退かせたとしても、転貸人である各戸の入居者はそのまま残ります。
サブリース会社が抜けた後は、各戸の入居者と直接契約することになります。
サブリース会社を退去させると、直接賃料が入ってくるため、収入が10~15%アップします。
また、直接賃貸になれば、自分でも経営感覚を持って、各戸の入居者と接することが可能です。
一括借上げを外して、自らが直接賃貸を行えば、他のアパートとは異なることもでき、差別化による賃料アップも狙えます。
一括借上げ契約によって、毎年ジリジリと賃料が下がるようであれば、一括借上げの解約(立退き)にチャレンジしてみましょう。
アパート経営はサバイバル時代になっている
近年は、以下の3つの理由によりアパート経営のサバイバル時代に突入しています。
- 人口減少により賃貸需要が縮小している
- 相続税強化によりアパートの供給が過剰である
- 建築費の高騰により利回りが低下している
今、アパート経営者の置かれている状況は10年前と全く異なります。
最近では、節税ばかりを説いていた税理士でさえもアパート経営は避けることを助言する人が増えています。
アパート経営のサバイバル時代においては、不動産オーナーは賃借人を選ぶ人ではなく、賃借人から選ばれる人に変わりました。
不動産賃貸借契約書を見ると、通常、貸主が「甲」で借主が「乙」になっています。
他の多くの契約書は、発注者が「甲」で請負者が「乙」のなることが多く、お金を払うお客様の方が「甲」であることが通常です。
つまり、契約書の甲乙とは、通常、「甲」の方がなんとなく偉い立場の人になります。
従来、貸主は「甲」として、「乙」である借主を選ぶ立場にありました。
ところが、最近は完全に借主が物件(貸主)を選ぶというように立場が逆転しています。
借主から選ばれるようにするには、他とは違うサービスを提供する等の工夫が必要になります。
ところが、貸主が独自のサービスを展開しようとした場合、一括借上げ(サブリース)を行っていると、一括借上げが独自サービスの阻害要因となります。
一括借上げでは上手く行かない理由
一括借上げは、所有者がアパート経営にタッチしなくても、アパート経営ができる優れものです。
一方で、一番大事な顧客との接点がサブリース会社にあるため、お客様に直接サービスを行うことや、お客様からの声を聞くことができないというデメリットがあります。
サブリース会社が他の物件と変わりのないサービスを展開している以上、あなたのアパートは他の物件に埋もれてしまうのは必須です。
他のアパートと同じようなアパートであれば、差を付けるのは家賃だけになります。
つまり、空室を埋める有効な対策として値下げしかないという状態になります。
例えば、差別化が難しい商品として、ガソリンがあります。
ガソリンはどこで給油しても基本的には同じです。
そのため、お客さんは1円でも安いガソリンスタンドを目指して給油することになります。
差別化ができないということは、価格競争に巻き込まれやすい状況に陥ります。
サブリース会社が頑張って差別化してくれなければ、あなたのアパートはガソリンスタンドと同じ状態です。
また、サブリース会社の行っている一括借上げというのは、大家に対して家賃の減額を申し入れることができます。
仮に、サブリース会社としては、空室が増えたとしても、大家との家賃を下げれば問題ないため、リスクを抱えていません。
サブリース会社はリスクを負っていないため、本気で空室対策に取り組むつもりはないです。
このように、一括借上げでは、間にサブリース会社という邪魔な存在が入っているため、オーナーが自らアパート経営にタッチができません。
差別化サービスができず、サブリース会社からの賃下げ要求を飲まざるを得ない状況が何年も続いてしまいます。
アパートの差別化経営を行うためには、サブリース会社を切る必要があります。
直接賃貸に切り替えることで、自分のアイディアを直接アパート経営に反映させることができ、差別化経営を実践することができるのです。
アパート経営を成功させるためには、他の物件にはない特別なサービスをする必要があります。
まずはサブリース契約をぶった切ることが、成功への第一歩となります。
他人任せにせず、自らアパート経営ができる体制を構築しましょう。
それでは最後にアパート経営で成功した4つの成功例についてご紹介します。
アパート経営で成功した4つの成功例
筆者が知っているアパート経営の成功例は4つに集約できると思っています。
- 募集の仕方変更による成功例
- 小額リフォームによる成功例
- 内見対応による成功例
- テナントリテンションによる成功例
成功例1.募集の仕方変更による成功例
アパートを満室にしていくには、不動産会社との協力が欠かせません。
ところが、不動産会社がなかなか動いてくれず、入居者が決まらないと感じている大家さんは多いです。
一方で、不動産会社の方には、毎週、100~200枚のボリュームで入居者募集のチラシが集まってきます。
サブリースのように、募集も完全に任せてしまっている場合、不動産会社に入居者募集チラシが渡る時点で、あなたの物件はその他大勢の一つとして埋もれてしまいます。
通常、サブリース会社は地元の不動産会社などにチラシを巻くことで募集の協力をおこないます。
ただ、物件チラシはFAXやメールで届くだけであり、その後、積極的な営業が行われることはありません。
そこで、直接賃貸でアパート経営をする場合、自ら不動産会社に入居者募集のチラシを売り込みに行きます。
まず管理会社以外に募集を依頼する場合は、お金のルールを明確にすることが重要です。
入居者を決めてくれた不動産会社には仲介手数料を払うのは当然ですが、管理会社へも広告料等の費用を支払うようにします。
アパート経営では管理会社とも良好な関係を継続することが重要であり、管理会社にへそを曲げられてしまうのは得策ではありません。
管理会社の立場も重んじながら、上手く他の不動産会社を使っていくことがポイントとなります。
次に行うことはできるだけ多くの不動産会社に自ら物件を売り込んでいきます。
最寄駅だけでなく、同じ路線で3駅程度までは営業してください。
不動産には「下りの法則」というのがあります。
上り方面の駅の不動産会社は、下りの方の駅の物件は勧めやすいという法則
下りに行くほど家賃が安くなるため、上り方面の不動産会社は条件の合わない顧客を下り方面に誘導してくれます。
さらに、不動産会社に自ら物件を売り込んだ後は、毎日、不動産会社を訪問します。
ポイントは、毎日「雑談をしに行く」という点です。
状況をトレースする必要はありません。
不動産会社の方は、この大家さんは何をしに来ているのか、十分に分かっています。
「決めないと、この人、毎日来るな~」と気に留めてもらうことが重要です。
不動産会社は物件を毎週100~200件程度扱いますので、営業マンの気に留まるというだけでも、とても大きな差別化になります。
成功している大家さんは、この不動産会社への訪問営業というのと取り入れています。
リアルに効果がありますので、ぜひ実践するようにしましょう。
それでは次に小額リフォームについてご紹介します。
成功例2.小額リフォームによる成功例
自主管理を行う場合、物件の掃除はオーナーが自ら行うべきです。
次々章で解説しますが、掃除はテナントリテンションにも強力な威力を発揮します。
またオーナーが自ら毎日掃除をすることで、どこが汚いのか、またはどこを改善すべきかが分かります。
小さな気付きにちょっとずつ対応するのが小額リフォームの基本です。
小額リフォームでオススメなのが、エントランス回りで行う「ガーデニング」です。
季節の花を植えることで、入居者にも楽しんでもらいます。
また、ガーデニングは入居者だけではなく、オーナー自身も楽しめるという点がポイントです。
夏は「ポーチュラカ」、冬は「パンジー」など、その季節に適した花が存在します。
育てやすさや、花の色合い等、自分で調べながら実践していくのは楽しい作業です。
土のスペースがない場合、プランターでも十分になります。
花の咲いたプランターをエントランスへ誘うように配列し、季節感を演出しましょう。
さらに、物件の郵便ボックスや掲示板等、みんなの目につくところに季節感を演出する飾付リフォームも有効です。
ハロウィンや、クリスマス、正月、七夕等の飾付をすることで、入居者を飽きさせないということがポイントとなります。
季節ごとの演出は、「人が介在している」ことの現れです。
入居者や内覧者に対して、このアパートは血が通ったアパートであると感じてもらうことが狙いです。
血の通った季節ごとの演出は、高級賃貸マンションでも効果を生んでいます。
人の温もりに価値を感じるのは、高級賃貸マンションだろうが、アパートだろうが関係ありません。
血の通った演出は、サブリースではできません。
オーナーが自ら作り出す、温かい演出こそ、入居者の心にダイレクトに響くのです。
それでは次に内覧対応について見ていきます。
成功例3.内見対応による成功例
自主管理の場合、内見対応もオーナーが行います。
ここでもオーナーが自ら対応することで他の物件とは大きな差別化になります。
ただ、初めて内見の対応をする場合、心構えとして知っておいた方が良いことがあります。
それは、内見にきたお客さんは、必ずしも借りてくれるわけではないという点です。
内見者が全て成約することはないという点は、当たり前のことですが、初めのうちは内見で断られてしまうと、精神的に凹んでしまうことがあります。
内見者は多くの物件の中から、オーナーの物件を選んでくれた人であるため、物件に非常に関心が高く、成約まであと一歩であることは間違いありません。
ただ、内見者は何物件かを同時に見て検討することが通常です。
あなたの物件に興味はあるものの、内見することによって「止める理由」を確定する人もいます。
例えば、大きな家具を持っており、収納にとてもこだわりのある人が居たとします。
あなたの物件は、立地や賃料も申し分ないのですが、内見した結果、その家具が入らないと分かったとします。
そのような内見者は、内見することで、その物件を選択肢から外します。
こだわりの強い内見者は、条件から外れると、どんなにセールスしても決まりません。
内見に不慣れだと、断られた際、「あのときの一言が余計だったかな、自分が悪かったかな」等の反省をしてしまいがちです。
ただ、内見することで借りないことを決めるお客さんは多くいます。
よって、内見で決まらなくても落ち込む必要は全くありません。
一方で、内見者の中には、ちょっと背中を押せば決まる人も多くいるのも事実です。
そのため、オーナー自らが内見で良い印象を与える工夫をする必要があります。
まず、内見で印象を良くするために、アロマで香りのおもてなしを行います。
アロマのおもてなしは、野村不動産が分譲マンションを販売する際に行う得意技でもあります。
アロマには、原液から香りを拡散させるディフューザーという機器があります。
ディフューザーを1つ購入しておけば、アロマを交換することで様々な香りを楽しめることができます。
内見者に先回りして、爽やかな香りを用意しておけば、物件の印象を上げることができます。
香りはインターネットでは伝えきれない情報なので、現地で良い香りがすれば、思わぬサプライズです。
また、オーナーとしては、周辺環境についても情報提供をしてあげることが重要です。
スウィーツが美味しいお店や、評判の良い病院等、不動産会社では知りえない情報を提供すると内見者に喜ばれます。
内見はオーナーが直接行うことで、入居者審査の代わりにもなります。
実際に会話をすることで、「この入居者は大丈夫そうか」ということも同時に判断ができるというメリットがあります。
内見で会話を弾ませるためにも、普段から入居者が喜ぶようなお得な地域の情報を集めておきましょう。
それでは次にテナントリテンションについて見ていきます。
成功例4.テナントリテンションによる成功例
昨今のアパート経営では礼金が取れなくなりました。
そのため、昔のように入居者をコロコロ入れ替えて方が儲かるという時代ではありません。
現在のアパート経営では、今の入居者に如何に長く入居してもらうかが最大のポイントになっています。
入居者に長く入居してもらう活動のことを「テナントリテンション」と呼びます。
- リテンション(retention)とは、「保持、記憶」とか「企業が既存の顧客を維持すること」
- テナントリテンションとは、今の入居者に長く入居してもらうための活動の総称
テナントリテンションは、決まったやり方や確立された方法が存在するわけではありません。
入居者が長く住むようになれば何をやっても構いません。
ただ、テナントリテンションの方向性としては、オーナーと入居者の人間関係の構築になります。
人間関係が構築されると、入居者は「退去しない」という結果につながりやすくなります。
人間関係とは、具体的には顔を突き合わせての「挨拶」です。
しかもその挨拶の頻度が高いほど効果が高まります。
同じ人物に接する回数が多いほど、その人に対して好印象を持つようになる効果を「ザイオンス効果」と呼びます。
このザイオンス効果をテナントリテンションとして取り入れます。
ザイオンス効果を狙ったアパート経営とは、具体的にはオーナーによる物件の清掃です。
しかもその清掃をわざと入居者が朝出勤するような決まった時間に行います。
清掃であれば、毎日、入居者の顔を自然に見ることができます。
ここでポイントは、「おはようございます」だけではなく、「今日は暑いですね」等、一言加えることがポイントです。
一言加えると、そこに何らかの会話が生まれます。
これを毎日繰り返すというのが、アパート経営におけるテナントリテンションです。
「たった、それだけ?」と思う方もいると思いますが、実はこの「毎朝挨拶作戦」は絶大なる効果を発揮します。
毎朝挨拶作戦だけで、満室経営を継続しているオーナーさんもいます。
入居者と人間関係ができてくると、様々なメリットが生じます。
「お風呂の弱地のしまりが悪いんですけど」という話も直接ありますが、すぐに直してあげると、入居者が感動して大家さんのファンになってくれます。
また退去についても直接、早めに教えてくれるようになります。
早めに退去が分かれば、次の入居者募集を、時間をかけて行うことが可能になります。
入居者との人間関係が構築できるということは、最高のテナントリテンションになるのです。
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まとめ
本当は安心できない一括借上げについて見てきました。
一括借上げはオーナーの集団訴訟が起きるくらい、実はオーナーが安心できない原因になっています。
一括借上げの契約を行う場合は、本当に一括借上げをすべきなのか慎重に見極めるようにしてください。