個人の方が不動産を売却すると、譲渡益に対して所得税が発生します。
課税対象は譲渡額ではなく譲渡益。譲渡益はつまり利益のことです.
商売で言う「いくらで仕入れて、いくらで売って、いくら儲けたか」の儲けに該当します。
所得税は売上ではなく儲けに対してかけられます。
儲けを把握するには、仕入がいくらか、つまり取得費の把握が必要となります。
こんな悩みをスッキリ解消!
- 取得費とは何なのか知りたい
- 取得費の計算方法を知りたい
- 取得費が分からな場合はどうすれば良いか知りたい
そこで今回の記事では不動産売却における「取得費」にフォーカスしてお伝えいたします。
この記事を読むことで、あなたは取得費とは何なのかを理解し、取得費の計算方法が分かり、また取得費が分からない時の対処法も知ることができます。
不動産を売却した時の所得税計算に取得費が必要
初めに不動産を売却した時に発生する所得税について解説します。
所得税は以下の計算式で計算されます。
所得税 = 課税譲渡所得 × 税率
ここで課税譲渡所得ですが、課税譲渡所得は売却額ではありません。
課税譲渡所得は以下の計算式で計算されるものになります。
譲渡所得 = 譲渡価額(売却額)-取得費(購入額)-譲渡費用(売却に掛かった経費)
※取得費とは土地は購入価額、建物は購入価額から減価償却費を控除した額
※譲渡費用は仲介手数料等の売却に要した費用
譲渡費用には、例として以下のようなものがあります。
- 売却の際の仲介手数料
- 売却に伴う広告費や測量費
- 売買契約書に貼付した印紙税
- 売却に伴い支払う立退料
- 建物等の取壊し費用
「譲渡価額」や「譲渡費用」は売却のタイミングで最近発生した費用なため正確なものを把握できます。
しかしながら、「取得費」は過去の費用であるため、把握できない可能性もあります。
そこで取得費の把握がよく問題となるのです。
そこで次に気になる取得費について説明いたします。
取得費とは?取得費に含まれる費用一覧
本題である取得費についてお伝えします。
取得費とは、売却した土地や建物の購入価額になります。
ただし、建物については減価償却後の価格となります。
また、取得費には以下の費用も含めることが可能。
- 購入の際の仲介手数料
- 購入の際に支払った立退料や移転料
- 購入時の売買契約書に貼付した印紙税
- 登録免許税や登録手数料
- 不動産取得税
- 搬入費や据付費
- 建物等の取壊し費用
これらの金額は、購入時の契約書や領収書等によって確認します。
また購入時の売買で固定資産税及び都市計画税等を精算した人も多いと思います。精算で買主が支払ったものは取得費に含めることが可能です。
ここまでが取得費の定義となります。それでは次に気になる取得費の計算方法について見ていきましょう。
取得費の計算方法と具体例
取得費は購入額と全く同じとは限りません。
- 建物の取得費:建物の減価償却費を控除した後の金額
- 土地の取得費:減価償却は行わないため、購入額がそのまま取得費
そこで建物の取得費の計算について見ていきます。
建物の取得費は以下の計算式で決まります。
【建物の場合の取得費】
取得費 = 建物購入代金 - 減価償却費
ここで減価償却費については、以下の計算式となります。
減価償却費 = 建物購入代金 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
償却率に関しては、用途と構造によって、以下の様に決まっています。
構造 | 非事業用 マイホーム・セカンドハウス | 事業用 賃貸マンション | ||
---|---|---|---|---|
構造 | 償却率 | 耐用年数 | 償却率 | 耐用年数 |
木造 | 0.031 | 30年 | 0.046 | 22年 |
軽量鉄骨 | 0.025 | 40年 | 0.038 | 27年 |
鉄筋コンクリート造 | 0.015 | 70年 | 0.022 | 47年 |
例えば、木造の戸建住宅であれば、償却率は0.031を用います。
ここで以下の条件で木造戸建住宅の減価償却費と取得費を計算してみましょう。
一戸建て
- 購入額:4,000万円 (建物価格3,000万円 土地価格1,000万円)
- 築年数:15年目
- 売却額:3,000万円
- 譲渡費用:111万円
上記条件の場合の減価償却費は下記のように計算できます。
- 減価償却費=3,000万円×0.9×0.031×15年=1,255.5万円
- 取得費 = 建物取得費 + 土地取得費 =1,744.5万円 + 1,000万円 =2,744.5万円
- 【建物】建物価格 - 減価償却費 = 3,000万円 - 1,255.5万円 = 1,744.5万円
- 【土地】1,000万円
よって課税譲渡所得は以下のように計算されます。
課税譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 = 3,000万円 - 2,744.5万円 - 111万円 = 144.5万円
仮に購入当時の購入の際の仲介手数料や購入時の売買契約書に貼付した印紙税等が分かっている場合には、それらを取得費に加算してください。
購入時の経費は取得費を大きくしますので、課税譲渡所得が小さくなり節税効果が発生します。
以上、ここまで取得費の計算方法について見てきました。
それでは次に気になる取得費が不明の場合の対処方法について見ていきましょう。
取得費が不明の場合は概算取得費になるので注意
取得時期の古い不動産の場合、購入当時の売買契約書が紛失しており購入価額が分からないような場合があります。
この場合、取得費を譲渡価額の5%として計算することができます。
譲渡価額の5%を概算取得費といいます。
例えば、3,000万円で売却した不動産の取得費が分からない場合は、概算取得費は以下の通りです。
概算取得費 = 譲渡価額 × 5% = 3,000万円 × 5% = 150万円
ここで譲渡費用が仲介手数料のみの96万円とします。
そうすると、課税譲渡所得は以下の様に計算されます。
課税譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 = 3,000万円 - 150万円 - 96万円 = 2,754万円
所有期間が5年超の不動産である場合、税率は20%(所得税15%・住民税5%)となります。
そのため所得税は以下の計算式で採算されたものになります。
所得税および住民税 = 課税譲渡所得 × 税率 = 2,754万円 × 20% = 550.8万円
概算取得費は譲渡価額の5%しかないため、課税譲渡所得がとても大きくなってしまいます。
同じ売却なのに取得費が分かっている場合は税金を払わず、取得費が分からない場合は税金を払うようなことも生じかねません。
ただし、概算取得費は「そのように計算しても差し支えない」とされているだけであって、法的に譲渡価額の5%が強要されているわけではありません。
5%に変わる合理的な計算方法が有れば、それを代用して取得費を計算しても構わないのです。
以上、ここまで取得費が不明の場合について見てきました。
それでは次に取得費が分からない場合の取得費の証明方法について見ていきましょう。
取得費の証明方法
取得費については、分からないことも多く、また不明の場合には多額の所得税が発生。
裁判で争われるようなこともあります。
その1つに平成12年11月に国税不服審査で採決された事例があります。
その事例では、取得費が不明な土地建物について、それぞれ公的な資料をもとに推測しています。建物については一般財団法人建設物価調査会が公表している着工建築物構造別単価によって計算し、土地については一般財団法人日本不動産研究所が公表している市街地価格指数に基づいて算出する方法です。
※参考:国税不服審判所「(平12.11.16裁決、裁決事例集No.60 208頁)」より
この方法は市場価格を反映した近似値を示すものとして合理的であると判定されたため、この方法で計算を行う税理士もいます。
しかしながら、この方法は一裁決であって、いかなるケースでも認められるとは限らないため注意が必要です。
売買契約書以外で購入額を証明する方法としては、通帳の出金履歴や住宅ローンの金銭消費貸借契約書、抵当権設定額等から推測する方法もあります。
建物金額を証明できる資料を可能な限り集め、取得費として認められるかどうかを税務署に相談してみましょう。
課税譲渡所得がプラスなら使える3,000万円の特別控除
マイホームの売却であれば、3,000万円の特別控除を受けられる可能性があります。
3,000万円の特別控除を受けられる場合は、課税譲渡所得は以下の式で計算されます。
譲渡所得 = 譲渡価額(売却額)-取得費(購入額)-譲渡費用(売却に掛かった経費)-3,000万円
※取得費とは土地は購入価額、建物は購入価額から減価償却費を控除した額
※譲渡費用は仲介手数料等の売却に要した費用
この場合、先ほどの3,000万円で不動産を売却した場合で計算すると下記のようになります。
課税譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 - 3,000万円 = 3,000万円 - 150万円 - 96万円 - 3,000万円
= ▲246万円
この場合、課税譲渡所得はマイナスとなるため、所得税は発生しません。
取得費が不明の場合には、土地建物価格が分かる資料を探すのと同時に、3,000万円の特別控除を受けられるかどうかについても確認をしましょう。
3,000万円の特別控除については下記記事に詳しく記載しています。
まとめ
不動産を売却した時に発生する所得税計算で必要となる取得費を解説してきました。
まずは購入当時の売買契約書が最も重要になります。
売買契約書がきちんと保存されているかどうかを確認することから始めてみましょう。