賃貸中物件の売却は「オーナーチェンジ」と呼ばれることが多いです。
オーナーチェンジによって、買主は所有権だけでなく賃貸人の地位も同時に引き継ぎます。
オーナーチェンジでは、引渡後に賃貸人の地位承継通知書を送付するという特殊なステップや売主から敷金も承継するステップも存在し、どのような手順で行えばいいのか分からない方も多いのではないでしょうか。
こんな悩みをスッキリ解消!
- オーナーチェンジの流れや注意点について知りたい
- 賃貸人の地位承継通知書について知りたい
- 敷金の承継方法について知りたい
そこで今回の記事では「投資用マンション売却におけるオーナーチェンジ」について解説します。ぜひ最後までご覧ください。
オーナーチェンジにおける入居者と新オーナーの関係
オーナーチェンジとは、賃貸借契約が継続中の物件の所有権が移転すること
オーナーチェンジ自体はよく行われるため、珍しいことではありません。
一般的な賃貸物件であれば、オーナーチェンジによって新オーナーは賃貸人の地位を承継(しょうけい)する点が特徴です。
オーナーチェンジを図にすると、Aさんが旧オーナー、Bさんが入居者、Cさんが新オーナーになります。
*今回の記事では、賃貸人 = オーナー と呼んでいます。
オーナーチェンジでは、既に旧オーナーと入居者との間で賃貸借契約が存在します。
つまり、入居者は物件を借りることができる賃借権という権利を持っているという状態です。
まず、オーナーチェンジによって所有権が新オーナーに変わった場合、入居者は第三者である新オーナーに対して「私には本物件を借りる権利があります」と主張できるかどうかの問題が発生します。
このように入居者が突然現れた第三者の新オーナーに自分の権利を主張することを「対抗」と呼びます。
入居者が新オーナーに賃借権の対抗をするには、入居者が対抗要件を備えていることが必要です。
賃借権の対抗要件は、借地借家法で「引渡」ということになっています。
引渡とは、具体的には「占有」のこと
通常の投資用マンションでは、売買時に入居者は占有しており、賃借権の対抗要件は備えている状態です。
よって、所有権が新オーナーに移転したとしても、入居者は新オーナーに対して賃借権を主張することができます。
入居者には正当な賃借権があるため、逆に新オーナーは入居者に対して「出て行け」とは言えないことになります。
そのため、新オーナーは賃貸人としての立場を引き継がなければいけないことから、新オーナーは当然に賃貸人の地位を承継することになるのです。
新オーナー、オーナーチェンジにおいては売却の事前または事後のいずれにおいても入居者の承諾は必要ないということになります。
新オーナーが賃貸人になった際、入居者は新オーナーに対して賃料の支払義務が生じます。
一方で、新オーナーは入居者に対して「建物を使用収益させる義務」と「敷金の返還義務」が生じます。
ここで、新オーナーは入居者に賃料を請求するには、建物の所有権登記が必要とされています。
通常、オーナーチェンジでは売買と同時に所有権移転登記も行いますので、新オーナーには賃料請求権が自然に備わることになっています。
次にオーナーチェンジの流れについてお伝えします。
オーナーチェンジの流れ
オーナーチェンジでの不動産売却の流れを示すと以下のようになります。
オーナーチェンジといっても、基本的な流れは通常の不動産の売却と同じです。
価格査定を行って、媒介契約(不動産会社と締結する仲介の契約のこと)を締結したら売却活動を開始します。
対抗要件を備えている物件であれば借主の賃借権は守られますので、売主は事前に借主に承諾を得るような手続きは不要です。
買主が決まったら売買契約を締結し、引渡を行います。
引渡では同時に所有権移転登記を行いますので、登記が備わると新オーナーに賃料請求権が認められることになります。
引渡が終われば、その後、売主と買主との連名で借主に対して「賃貸人の地位承継通知書」を送付します。
賃貸人の地位承継通知書については【3.賃貸人の地位承継通知書とは】にて解説します。
「賃貸人の地位承継通知書」を送付するタイミングは所有権移転登記が完了した引渡の後である点がポイントです。
売却によって税金が発生する場合には、売却した翌年の2月16日から3月15日の間で確定申告を行います。
次に賃貸人の地位承継通知書についてお伝えします。
賃貸人の地位承継通知書とは
賃貸人の地位承継通知書とは、売却後に売主(旧オーナー)と買主(新オーナー)の連名で借主に対して賃貸人が変わったことを通知する書面のこと
特に決まった書式はありませんが、主に以下のことを通知するのが一般的となります。
賃貸人の地位承継通知書に記載する主な内容
- いつ時点の売買によって、所有者が売主(旧オーナー)から買主(新オーナー)に変わったこと
- 従前の賃貸借契約は、そのまま有効に買主(新オーナー)へ引き継がれていること
- 敷金の返還義務は買主(新オーナー)へ引き継がれたこと
- 家賃の振込先が新しく変わったこと
大きなポイントとなるのは、「家賃の振込先が新しく変わる」という点です。
新しい家賃の振込先は買主(新オーナー)としては、真っ先に伝えなければならない内容となります。
しかしながら、借主にとってはいきなり見ず知らずの第三者から「来月から家賃をここに振り込め」と言われても、承服しかねるのが普通です。
そこで、賃貸人の地位承継通知書は売主(旧オーナー)も必ず連名で出すことになっています。
売主(旧オーナー)と連名の通知書であれば、もし借主が不審に思っても売主(旧オーナー)に真偽を問いただすことができます。
売主(旧オーナー)が「本当に売りましたよ」と回答すれば、借主も売買があったことを信じることができます。
また、借主が不安に思う点は預けた敷金が戻ってくるのかどうかという点です。
借主からすると、実際に敷金を預けたのは売主(旧オーナー)であるため、買主(新オーナー)が返してくれるのかという疑問が生じます。
そこで、「敷金の返還義務は買主(新オーナー)へ引き継がれたこと」も明記することがポイントです。
賃貸人の地位承継通知書は売主(旧オーナー)が連名することに大きな意味がありますので、売却後は必ず買主(新オーナー)と協力して通知書を出すようにしましょう。
次に敷金の承継方法についてお伝えします。
敷金の承継方法
敷金の承継方法としては、敷金に相当する額を売買代金から減額するという方法を取ることになります。
オーナーチェンジによって、敷金の返還義務は買主(新オーナー)に引き継がれます。
しかしながら、買主(新オーナー)は、実際に今の借主から敷金を預かっているわけではないという点がポイントです。
では、どうやって買主(新オーナー)は返還敷金の原資を確保するのかという疑問が生じます。
オーナーチェンジでは、通常、物件の引渡時に「敷金の精算」と呼ばれる行為を行います。
精算とは、売主と買主との間で行う金銭の調整のこと
例えば、物件価格が3,000万円で、売主(旧オーナー)が借主から預かっている敷金が50万円という投資用マンションがあったとします。
この投資用マンションを敷金の精算をして売る場合、物件価格から敷金を差し引いた額を買主から受領することで敷金を承継したものとみなします。
具体的には、買主から受領する金額は3,000万円ではなく、2,950万円(=3,000万円―50万円)にするということです。
買主は本来3,000万円を売主に支払わなければなりませんが、2,950万円としたことで敷金の返済原資である50万円分を確保したことになります。
このように敷金の承継は売買代金の調整によって行うため、実際に売主が預かっていた敷金を買主に渡すということは行いません。
これまでオーナーチェンジの流れや敷金の承継方法等について見てきましたが、次にオーナーチェンジをするときの注意点についてお伝えします。
オーナーチェンジをするときの5つの注意点
オーナーチェンジをする際の注意点は以下の5つです。
オーナーチェンジをするときの5つの注意点
①精算項目を決めておくこと
収益物件をオーナーチェンジする場合は、売主と買主との間で精算項目を決めておくことがポイントです。
通常、不動産の売却で精算の対象となるのは固定資産税が一般的ですが、マンションの場合には、管理費及び修繕積立金も対象となります。
また、投資用マンションの場合には、敷金の他、賃料や共益費、駐車場代、駐輪場代等も精算対象になり得ます。
賃料までは精算したとしても、駐車場代や駐輪場代のような細かい金銭については精算をしない人たちも多いです。
精算は、あくまでも売主と買主の間で行う任意の行為なので、両者が同意していれば行わなくても問題ありません。
投資用マンションは精算項目が多いことから、スムーズに売却するためにも、何をどこまで精算するかはきちんと取り決めておきましょう。
②過去の入居者との要求内容を整理しておくこと
オーナーチェンジでは、過去の入居者との要求内容を整理しておくことがポイントです。
投資用マンションの買主は、過去に入居者からどのような要求があったのかを知りたがることが多いです。
例えば「家賃の減額要求があった」「風呂釜を修理して欲しいとの要求を受けた」等の内容等です。
借主の要求を未解決のまま売却すると、買主が購入後に未解決の要求を受けることになります。
過去の要求事項は、買主にとって重大な関心事であることから、検討段階で質問を受けることが一般的です。
質問を受けた際、虚偽の内容を回答してしまうと告知義務違反となり、後から売買契約を解除されてしまう原因となります。
過去にどういう要求があり、その要求が解決済みなのか、未解決なのか、回答できるように整理しておくことをオススメします。
③過去の入居者トラブルを整理しておくこと
オーナーチェンジでは、過去の入居者トラブルを整理しておくこともポイントです。
投資用マンションの買主は、過去の入居者トラブルも知りたがります。
例えば「家賃の不払いがあった」「夜中に騒いで近隣とトラブルになった」等の内容です。
過去の入居者トラブルに関しても、検討段階でよく聞かれることですので、もし特筆すべきトラブルがあれば、伝えられるようにまとめておきましょう。
④原状の状態を伝えられるようにしておくこと
オーナーチェンジでは、原状の状態を伝えられるようにしておくこともポイントです。
原状とは貸したときの状態のこと
買主(新オーナー)が原状の状態を知らずに購入するため、借主が退去するときに原状回復でトラブルになることがよくあります。
もし今の入居者を入居させる際、写真付きで「入居時の物件状況確認書」を作成していれば、それを引渡すのがベストです。
入居時の物件状況確認書がない場合、原状がどのような状態であったかをちゃんと引き継ぐ必要があります。
例えば、エアコンや温水洗浄便座の所有権は誰かということも伝えなければならない事項です。
入居中にエアコンが壊れてしまい、売主が承諾して入居者が自費でエアコンを設置しているようなケースがあります。
売主と借主の資産が入り乱れてしまっている状態の物件もありますので、資産区分もはっきりさせておくことがポイントです。
⑤敷金の充当履歴を整理しておくこと
オーナーチェンジでは、敷金の充当履歴を整理しておくこともポイントです。
例えば、過去に家賃の不払いがあり、預かり敷金の一部を家賃に充当しているケースがあります。
敷金の一部を充当していれば、買主(新オーナー)と精算する敷金の額は、充当後の残額の敷金です。
買主(新オーナー)も返還すべき敷金の額は充当後の残額になります。
敷金の充当は、売主(旧オーナー)しか伝えられない内容ですので、しっかりと整理して買主(新オーナー)に告知するようにしましょう。
自分の投資用マンションが「いくらで売れるか」まずは査定依頼から
投資などの収益物件の売却は、不動産会社に査定してもらうところからスタートします。
収益物件の主な買主は投資家です。投資家は、通常、収益物件をメインで扱うよう不動産会社で物件を探しています。
逆に言うと、売却の際も、そのような多くの投資家を抱えている不動産会社に頼むのが効率的です。
気をつけなければいけないのは、査定額はあくまで、不動産会社がいくらで売れそうなのかを判断した価格です。
不動産会社ごとに、実績や算出方法が異なるので、不動産会社によって査定額がバラバラになってしまうことが一般的です。
収益物件は、賃料収入など収益性も加味しながら査定をするため、なおさら不動産会社の力量で査定額にバラつきが出てきます。
なので、査定は複数の不動産会社に依頼して、比較検討することがとても大切です。

しかし、複数の不動産会社を自分で調べて、1社ずつ何度も査定依頼を進めるのはとても大変です。
そんな時に不動産一括査定サイトの活用を強くオススメします。
不動産一括査定とはインターネット上であなたが売りたいと思っている不動産情報・個人情報を入力すると、複数の不動産会社が自動的に見つかり一度に査定依頼できるサービス
複数の不動産会社から査定額を提示してもらうことができ、だいたいの相場観を掴むことができます。一括査定の流れとしては下記の通り。
売却することは決まっておらず、現在の市場価格を確認してみたいという方でも活用出来るので、定期的にチェックしてみるのも良いでしょう。
便利な不動産一括査定サイトですが、筆者が知っているだけでも30はあります。
多くのサイトが乱立し、どのサイトを使えば良いか素人には分かりづらくなってしまっています。
実績や信頼性、提携不動産会社の質など、総合的に判断すると筆者は下記の3つを組み合わせて利用することをオススメします。
- 県庁所在地などの人口が多い市区町村:「すまいValue」「HOME’S」「RE-Guide(リガイド)」を併用する
- 田舎などの人口が少ない市区町村:「HOME’S」「RE-Guide(リガイド)」を併用する
上記オススメサイトの査定依頼フォームでは、「物件の状態」と「賃料」を問う項目があります。(※下記、すまいValueのフォーム画面)
人に貸している収益物件の場合は「賃貸中」にチェックの上、現在の賃料を入力しておきましょう。
収益物件の査定は賃料が大きく関わってきますので、入力しておいた方が正確な査定結果を得ることができます。
不動産一括査定サイトについては下記記事でさらに詳しく解説しています。

まずはどこか1社の査定依頼でOKという方は、「三井のリハウス」がオススメです。
三井のリハウスは仲介取扱件数 第1位であり、多くの買主情報を持っており、投資家もたくさん抱えています。
評判がいい不動産仲介会社のおすすめランキングについては下記記事をご確認ください。

まとめ
投資用マンション売却におけるオーナーチェンジの流れや注意点について解説してきました。
借主が引渡という対抗要件を備えていれば、オーナーチェンジによって賃貸人の地位は当然に新オーナーに引き継がれます。
オーナーチェンジにおいては、引渡後に借主に対して賃貸人の地位承継通知書を送付することが一般的で、敷金の承継方法は、売買代金から敷金を差し引いた形で承継したものとみなします。
オーナーチェンジにおいては「精算項目を決めておくこと」「過去の入居者との要求内容を整理しておくこと」等が注意点になります。
投資用マンションのオーナーチェンジが理解できたら、まず最初に査定依頼から取り掛かってみてください。