耕作放棄地とは、以前耕地であったもので、過去1年以上作物を栽培せず、しかもこの数年の間に再び耕作する考えのない土地のこと
国内の農地面積が減少する中、耕作放棄地面積率は、平成2年から平成22年にかけて約2倍に増加しています。
耕作放棄地に興味がある人の中には、
こんな悩みをスッキリ解消!
- 耕作放棄地ってそもそも何だろう
- 耕作放棄地はなぜ発生するのだろう
- 耕作放棄地はなぜ簡単に売れないのだろう
等々のことを思っている方も多いと思います。
そこで今回の記事では、「耕作放棄地」にフォーカスしてお伝えいたします。
この記事を読むことで、あなたは耕作放棄地について理解できるようになります。
耕作放棄地とは「農林業センサスにおける統計上の用語」
耕作放棄地とは、農林業センサスにおける統計上の用語です。
農林業センサスとは、我が国の農林業の生産構造や就業構造、農山村地域における土地資源など農林業・農山村の基本構造の実態とその変化を明らかにし、 農林業施策の企画・立案・推進のための基礎資料となる統計を作成し、提供することを目的に、5年ごとに行う調査のことです。
尚、農地法においては、類義語として「遊休農地」という言葉があります。
遊休農地の定義は以下の通りです。
- 現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地
- その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し、著しく劣っていると認められる農地(①を除く)
耕作放棄地よりも遊休農地の方が、若干広い範囲を指しますが、内容としてはほぼ同じです。
以上、ここまで耕作放棄地の定義について見てきました。
耕作放棄地の現状はどのようになっているのでしょうか。
そこで次に耕作放棄地の現状について解説致します。
耕作放棄地の現状
耕作放棄地は、ご想像通り増え続けています。
以下に、全国の経営耕地面積と耕作放棄地面積の過去30年間の推移を示します。
青いラインが経営耕地面積で、左の軸、赤いラインが耕作放棄地面積で、右の軸となります。
経営耕地とは、農家が経営する耕地のこと
耕作放棄地は昭和60年までは、およそ13万haの横ばいで推移していましたが、平成2年以降、増加に転じ、平成22年には39.6万haとなっています。
39.6万haは、ほぼ埼玉県の面積に相当する面積です。
平成27年4月に行われた農林水産省農村振興局調べ耕作放棄地に関する意向調査では、発生原因としては、以下の理由が挙げられています。
- 1位:高齢化・労働力不足
- 2位:土地持ち非農家の増加
- 3位:農産物価格の低迷
最も大きな要因は「高齢化・労働力不足」であり、農業の担い手が減少していることが、そのまま耕作放棄地の増加に繋がっているのです。
以上、ここまで増え続ける現状について見てきました。
では、耕作放棄地が増えることになった社会的背景は何なのでしょうか。
そこで次に、守られ過ぎて衰退した日本の農業について解説いたします。
耕作放棄地と農地法
耕作放棄地を不動産として捉えるには、農地法の理解が欠かせません。
農地法は農地を守るための法律です。
農地法第一条には、その法律の目的が以下のように定義されています。
【農地法の目的】
国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もって国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。
少し長いですが、ポイントは2点です。
第一のポイントとしては、農地法は「農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進」する法律であるということです。
「農地の権利を取得」、つまり農地を購入については、「農地を効率的に利用する耕作者」に対して買ってもらうことを促進しているという点です。
農地を効率的に利用する耕作者とは、農業を本格的に行う人ということになります。
つまり、サラリーマンが家庭菜園を目的に農地を購入しようとしても、それは認められないということです。
農地法は、農地を守る法律ですので、農地を農地として売る場合は、自由に売買できそうな気がします。
しかしながら、農地法では、農地を農地として売るにも許可が必要であり、やたらと売ることができません。
農地として売れば、農地は減らないはずですが、農業のやる気のない人に売ってしまうと、収穫量も減る可能性があるため、結果的に農地を減らす可能性があります。
そのため、農地は農地として売ろうとしても、やたらと売却できず、農業委員会の許可が必要となります。
この許可については、農地法第三条に書かれているため、「三条許可」と呼ばれています。
ここで農業員会とは、農地法に基づく売買・貸借の許可、農地転用案件への意見具申、遊休農地の調査・指導などを中心に農地に関する事務を執行する行政委員会として市町村に設置されている組織のことを言います。
第二のポイントとしては、農地法は「農地を農地以外のものにすることを規制」する法律でもあるという点です。
農地を農地以外、つまり建物を建てるための宅地とすることを「転用」と呼びます。
転用には、許可が必要となります。
農地を宅地へと転用すれば、農地が減るため、当然に規制の対象となるわけです。
農地の転用に関しては、「所有者が自分で行う」場合と、「買った人が行う」場合の2つがあります。
それぞれについて、都道府県知事の許可が必要になります。
「所有者が自分で行う」場合の許可は、農地法第四条に書かれているため、「四条許可」と呼ばれています。
「買った人が行う」場合の許可は、農地法第五条に書かれているため、「五条許可」と呼ばれています。
農地法の許可をまとめると、以下の取りになります。
名称 | 内容 | 許可権者 |
---|---|---|
3条許可 | AからBへ農地を農地として売却すること | 農業委員会 |
4条許可 | 自分で農地を農地以外に転用すること | 都道府県知事または指定市町村町 |
5条許可 | AからBへ農地を農地以外に転用して売却すること |
このように農地は、売るにも転用するにも許可が必要になります。
この規制は、農業を止めたい人にとっては、とても厄介な規制です。
現在、農業は就労人口が減っているため、三条許可を取得して買ってくれる人もいません。
さらに四条許可や五条許可によって転用もしにくいということであれば、そのまま放置するしかないのです。
つまり、結果的に耕作放棄地にせざるを得ないということになります。
農地法は、本来、農地を守るための法律ですが、規制でガチガチなっているため、逆に耕作放棄地を増やす原因にもなっています。
農地法の規制により、フリーズ状態となってしまったのが、今の耕作放棄地と言えます。
以上、ここまで耕作放棄地と農地法について見てきました。
では、なぜここまで耕作放棄地が増えるに至ったのでしょうか。
そこで次に都市計画法の弊害について解説します。
農地の売買については下記記事に詳しく解説しています。
都市計画法の弊害
農地の身動きが取れなくなったのは農地法のせいだけではありません。
耕作放棄地を増やした原因には、都市計画法も関連してきます。
都市計画法の中では、「市街化を抑制すべき区域」として、市街化調整区域と言うエリアが定められています。
市街化調整区域内では、建物を建てる際に開発許可と呼ばれる許可が必要となります。
許可というのは、要件を満たさない以上、建物を建てることができません。
市街化調整区域は、開発許可を受けられる要件を満たす土地が少ないため、実質的には建物が建てられない土地が多くあります。
すると、市街化調整区域内に農地があると、そこは都市計画法によって建物が建てられないため、農地の転用の可能性が絶望的になります。
例えば農地を購入してアパートを建てようと言う人が現れないということになります。
つまり、農地法の五条許可の可能性が都市計画法によって無くなります。
市街化調整区域内の農地は、転用の可能性が低いため、農地を手放したい人は農地として売買するしかありません。
農業をやりたいという人は少ないため、農地はなかなか売れないということになります。
つまり、都市計画法によっても、農地は放置せざるを得ず、結果的に耕作放棄地となってしまうのです。
市街化調整区域については、下記記事で詳しく記載しています。
農地は、色々な法律によってがんじがらめになっています。
固く締めすぎて、その悲鳴の表れが耕作放棄地と言えるのです。
以上、ここまで都市計画法と農地法の弊害について見てきました。
では耕作放棄地にはどのような対策がとられているのでしょうか。
そこで次に耕作放棄地の対策について解説します。
耕作放棄地の対策・成功例
耕作放棄地は、法律の悲鳴のような存在です。
ところが、農地法も都市計画法も規制が緩和される方向性は全くありません。
売却も転用もできないということであれば、耕作放棄地を減らすには農業そのものを活性化するしかありません。
現在、農業を活性化する背策には様々なものがありますが、その中で、なんとなく可能性のあるものとして、「農商工連携」があります。
農商工連携とは、農林水産業者と商工業者がそれぞれの有する経営資源を互いに持ち寄り、新商品・新サービスの開発等に取り組む動きです。
農林漁業の1次産業に、製造業の2次産業やサービス業等の3次産業が一体的に加わることにより、農産物に付加価値が生まれ、農業を活性化することが狙いです。
ここでは、参考に成功例を2つ、ご紹介します。
成功例1:遊休農地をコスモス畑に再生(兵庫県篠山市)
平成12年度から市内全農家に対し農業経営に対する意向調査(アンケート)を実施。
平成13年度は、各集落の農政協力員集落アンケートという形で協力願い、耕作放棄地と荒廃地を洗い出し、地図に落とし込む作業及び空き家調査を実施。
平成14年度は、農地パトロール、現地調査等を踏まえ、再生する農地を決定した。
平成15年度は、荒廃農地を復旧する作業に入った。当面は国道沿の農地45aをコスモス畑に復旧。草刈り、排水作業、除草、耕転、播種などボランティアの協力により復旧。翌年度からは、借り手として地元農家に利用権を設定した。
平成16年度も前年と同様に他の荒廃地を選定し30aを復旧した。
※出典:農林水産省「兵庫県篠山市 ~遊休農地をコスモス畑に再生~」より
最初の例は、市民ボランティアによる耕作放棄地の解消例です。
耕作放棄地の発生原因は「高齢化・労働力不足」でしたが、そこを市民ボランティアによって労働力を投入し、解消しています。
人手不足をボランティアで補い、耕作放棄地を解消していく成功例は、比較的全国で多く見られます。
また、ボランティアだけでなく、元小学校校長や元銀行員などの定年退職者を採用し、営利目的で農業を行い、耕作放棄地を解消する成功例もあります。
人手不足イコール耕作放棄地の増加であるため、今後、農業の担い手をどのように確保していくかが、耕作放棄地の減少に向けたカギを握ります。
成功例2:町とJAの連携による観光果樹園化(埼玉県美里町)
県内でも有数の養蚕地帯であったが、価格の低迷、高齢化により、荒廃化が進行。
平成10年度に美里町地域農業開発協議会(町長、町議会議員、農業委員、土地改良区役員、町森林組合長、学識経験者で構成)を開催し、遊休農地解消実践活動として、「観光果樹園100町歩構想」を推進した。
平成11年には美里町地域農業振興実施計画(観光果樹園100町歩構想)を策定し、町、農業委員会、農協、農業改良普及センター等からなる観光果樹園100町歩構想推進協議会を組織した。
5ケ年計画で100haの遊休桑園等を観光果樹園(ブルーベリー、梅、プルーン等)
とする構想で、平成16年4月現在70haの耕作放棄地を解消した。
※出典:農林水産省「埼玉県美里町 ~町とJAの連携による観光果樹園化~」より
耕作放棄地が増加する要因の一つに「農産物価格の低迷」がありました。
この事例では、耕作放棄地を観光農園とすることで高収益化を図り、耕作放棄地を解消した成功例です。
観光農園は、都市部に近い農村地帯なら、成功の確率はかなり高くなります。
都市農村は、観光農園や農業体験学校、障害者の就労の場の提供等、様々な役割を果たすことができ、近年は注目され始めています。
単純な農業だけでなく、観光や農業体験ツーリズム、学校等の要素を加えることで、耕作放棄地は新たな活用ができるものと期待されています。
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農地を売却する場合は、農地を扱ったことのある地元の不動産会社に依頼することをオススメします。
農地の仲介には、許可手続きを進めるうえでの経験が必要だからです。
といってもそもそも不動産会社を知らない人も多いと思います。
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ただ、残念なことに「農地」に対応している一括査定は少なくHOME4Uぐらいしかありません。
農地査定の方法
申し込み際に必ず「農地」を入れるようにしてください。
物件を選ぶときに「その他」、すると入力欄が出るので「農地」と記載します。
すると下記のように農地に強い不動産会社が見つかります。
まとめ
以上、耕作放棄地とは何か?耕作放棄地の現状や対策等について徹底解説してきました。
耕作放棄地は日本の農業の象徴のような存在です。
様々な対策や成功例もありますが、今後も耕作放棄地は増えていくことが予想されます。