相続で引き継いだ畑や、実家の田んぼ等、不要となっている農地の処分で困っている人もいると思います。
現在は、農業をやる人が極めて少ないため、農地としては売ろうと思ってもなかなか売却できないのが現状です。
さらに、農地を売却するには、農地法や都市計画法といった法律の知識を必要とします。
こんな悩みをスッキリ解消!
- 農地を売買するにはどうしたら良いのか知りたい
- 農地の売却の障害となっている法律の概要を知りたい
- 農地を売却したときの税金はどのようになるのか知りたい
そこで今回の記事では農地の売買にフォーカスしてお伝えいたします。
この記事を読むことで、あなたは農地売買の基礎知識を得ることができます。
農地売買は宅地よりも難易度が高い
農地の売買も、基本的には普通の宅地の売買と同じです。
ただし農地は、法律(農地法)で厳しい制限があり、農家や農業参入者以外には自由に売却することができないため、売却難易度は高いです。
農地は宅地に比べると価格が安い
農地は、宅地に比べると、価格も非常に安いです。
また、農業を行う目的で購入する人も少なく、売却には時間もかかります。
早く売ろうとしても簡単には売れません。
農地の売却は、気長に構えて、売れるのをじっくり待つ必要があります。
以上、ここまで農地の売買の特徴について見てきました。
では、農地の価格はどのような要因によって決まるのでしょうか。
そこで次に農地の価格が決まる要因についてご紹介します。
農地の価格が決まる要因
農地の価格を決定する要因としては、以下のようなものがあります。
- 日照、乾湿、雨量等の状態
- 土壌及び土層の状態
- 農道の状態
- 灌漑排水の状態
- 耕うんの難易
- 集落との接近の程度
- 集荷地との接近の程度
- 災害の危険性の程度
- 公法上及び私法上の規制、制約等
このうち、農地は「公法上及び私法上の規制、制約等」によって、とても大きな影響を受けます。
農地の売買に大きく影響を与える法律は、「農地法」と「都市計画法」の2つです。
都市計画法に関しては、市街化調整区域内の開発許可に影響を与えます。
そこで、農地法と市街化調整区域内の開発許可について説明していきます。
農地売買に影響を与える「農地法の許可」
農地の売買の最大の障害となるのは、農地法です。
簡単に言うと、農地は他の土地とは異なり、売却するのにお上の許可を得なければなりません。
農地は国の食糧を生み出す大切な土地であるため、農地が減少することは国の死活問題となるというのが農地法の根底にあります。
しかしながら、現状では農地が減る以上に、農業就労人口が激減していますので、現状と法律が噛み合っておらず、法律が厄介な存在になっています。
農地を売却や転用するときの規定
農地法は、売却もしくは用途の転用に関して、以下の規定を設けています。
規定がそれぞれ農地法の3~5条に記載されているため、3条許可、4条許可、5条許可と呼ばれています。
名称 | 内容 | 許可権者 |
---|---|---|
3条許可 | AからBへ農地を農地として売却すること | 農業委員会 |
4条許可 | 自分で農地を農地以外に転用すること | 都道府県知事または指定市町村町 |
5条許可 | AからBへ農地を農地以外に転用して売却すること |
簡単に言うと、農地を農地として売る場合は3条許可が必要となります。
農地を農地以外に転用して売る場合は5条許可が必要となります。
4条許可に関しては、売却せずに自分で農地を別の用途に転用する場合の許可になります。
市街化区域の農地は例外規定がある
ただし、ここで用途転用に関する4条許可と5条許可には例外があります。
市街化区域における農地については、用途転用に関しては「農業委員会への届出」だけで良いという例外規定があります。
市街化区域とは、都市計画法で定められる「すでに市街化を形成している区域またはおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」です。
市街化区域は、主に人が多く住んでいる都市部に定められています。
市街化区域は、「どんどん人が住む街(市街化)してください」というエリアであるため、農地を、建物を建てるための宅地に転用することはウェルカムなわけです。
よって、市街化区域では、用途転用に関しては単なる届出だけで良いということになります。
例えば、市街化区域内の農地を、AさんからBさんへ転用目的で売却する場合は、届出という簡単な手続きで済ますことができます。
しかしながら、農地を農地として売却する3条許可に関しては、農業委員会への許可が必要となります。
農地法は、発想として農業に従事する人が変わることを嫌がります。
人が変わると、収穫量も変わってしまうためです。
例えば、専業農家の人から農業経験のないサラリーマンに農地を売ろうとすると、許可が下りません。
サラリーマンに売ってしまうと、実質、農地が減ってしまうことになるため、ちゃんと農業をできる人でないと、売却の許可が下りないのです。
ここで、農地法の規制を受ける農地とは、どのような土地を指すのかが問題となります。
まず、農地は現況主義で判断されます。登記簿謄本の地目は関係ありません。
登記簿謄本の地目が山林となっていても、現役バリバリの農地なら、それは農地法の対象となる農地です。
一方で、耕作放棄地はどうでしょうか。実は、耕作放棄地の農地法の対象となる農地です。
耕作放棄地とは、以前耕地であったもので、過去1年以上作物を栽培せず、しかもこの数年の間に再び耕作する考えのない土地のこと
一時的に休耕しているものとみなされ、農地法の対象となります。
現況主義なのですが、なぜか休耕地は農地です。実質的には、耕作放棄地の売買は非常に多いです。
相続で引き継いだ畑や、実家の田んぼ等は、ほとんどがこの耕作放棄地に該当しているためです。
耕作放棄地は農地法の対象となります。
市街化区域以外の土地であれば、転用目的の売却でも許可が必要ですのでご注意ください。
逆に、家庭菜園の土地は、現役バリバリであっても農地ではありません。
現脅威主義と言いつつ、家庭菜園は一時的な利用形態であるとみなされます。
農地売買に影響を与える「市街化調整区域の開発許可」
都市計画法では、市街化調整区域というエリアも定めています。
市街化調整区域:市街化を抑制するように定められた地域
市街化調整区域は、市街化区域と隣接したエリアに定められます。
そのため、放っておくと、どんどん農地が宅地化される可能性があることから、厳しい規制が定められています。
具体的には、市街化調整区域内の土地は、許可を受けないと建物を建てることができません。
この許可のことを開発許可と呼んでいます。
市街化調整区域内の農地は、転用には開発許可を必要とします。
例えばAさんからBさんへ転用目的で農地を売却しようとすると、農地法の5条許可と都市計画法の開発許可のW許可を得る必要があります。
そのため、市街化調整区域内の農地を転用目的で売却するには、極めてハードルが高くなるという点に注意が必要です。
市街化調整区域内であっても、農地として売却するのであれば、3条許可のみで済みますが、転用目的とすると、開発許可まで必要となるため、ほとんど購入する人がいないということになります。
市街化調整区域内の農地は、農地の中でも特に売却の難しい土地になります。
売買をする前に、自分の所有している農地がどのようなエリアに属しているかについて、きちんと確認するようにしましょう。
農地売却のための2つの方法
農地を売却できるのは農家や農業参入者のみになります。また、農地の売却には、農業委員会の許可が必要です。
農地の売却方法は以下の2種類があります。
農地の売却方法
- 農地のまま売却する
- 農地転用して売却する
農地のまま売却する
農地のまま売却するためには、以下のステップを踏む必要があります。
農地のまま売却するためのステップ
- 買い主となってくれる農業従事者を見つける
- 許可を条件とした売買契約を締結
- 農業委員会に許可申請
- 許可前に所有権移転請求権仮登記
- 許可後に代金支払いと所有権移転登記(本登記)
ステップ1. 買い主となってくれる農業従事者を見つける
農業従事者から、買い主となってくれる候補を見つけるのは、とても難しいです。
買い主を見つける方法として、以下の方法が検討できます。
- 農地中間管理機構に農業従事者の斡旋依頼
- 農地に強い一括査定サイトを使って仲介業者とコンタクト
- eMAFF農地ナビに農地の売却情報を掲載
「eMAFF農地ナビ」や「農地中間管理機構」を使った農地売却の方法は、人脈が必要だったり、売却までに時間がかかってしまうことが多いので難易度が高いです。
初めて農地を売却する人は、農地に強い一括査定サイトを使って、不動産仲介業者に協力を得ながら買主候補を見つけていきましょう。
ステップ2. 許可を条件とした売買契約を締結
農地のまま売却するためには、農業委員会の許可が必要になりますが、先に買主と売買契約を結びます。
農業委員会の許可よりも先に売買契約を結ぶ理由は、売却の成立が不透明だったり、買主が不明の状態では、許可が下りない可能性が高いからです。
許可が下りることを前提とした売買契約になるため、仮に許可が下りなかった場合は契約無効になるので注意しましょう。
ステップ3. 農業委員会に許可申請
買主との売買契約締結後は、各市区町村役場にて農業委員会に許可申請を行います。
農業委員会に提出する必要書類は、各農業委員会ごとに異なることがあるので、きちんと事前に確認するようにしましょう。
例えば、埼玉県朝霞市の農業委員会の提出書類は以下の通りです。
- 農地法第3条届出添付書類
- 農地法第4条届出添付書類
- 農地法第5条届出添付書類
- 農地改良届出添付書類
- 納税猶予に係る適格者証明願添付書類
- 生産緑地に係る農業の主たる従事者等についての証明願添付書類
ステップ4. 許可前に所有権移転請求権仮登記
農業委員会から正式な許可が下りる前に、農地の所有権を間違いなく買主に移転するという意味で、仮登記を行います。
仮登記(かりとうき)とは、不動産について誰が権利を持っているのか、その不動産の情報などとともに記録される「登記」を仮に行うこと
仮登記をしておけば、他の人に農地が売買されることがなくなるので、買主側が安心することができます。
仮登記は必須の手続きではないですが、お互いの信頼関係を築くためにされることが多いです
ステップ5. 許可後に代金支払いと所有権移転登記(本登記)
農業委員会から許可が下りると許可証が交付されたら、本登記になる所有権移転登記を進めます。
その後、買主からの売却代金を受けとり、農地売買は完了になります。
農地転用して売却する
農地転用とは、農地を農地以外のものにすること。例えば農地を宅地や駐車場、資材置場、道路等にすることは農地転用に該当
農地転用は、「所有者を変更しないまま農地を転用する方法」と「売却または賃貸をすることで農地を転用する方法」の2種類があります。
2種類の転用に関しては、農地法の第4条と第5条に規定されており、それぞれ4条許可、5条許可といった名称で呼ばれることが多いです。
名称 | 内容 |
---|---|
4条許可 | 所有者を変更しないまま農地を転用するときの許可 |
5条許可 | 売却または賃貸をすることで農地を転用するときの許可 |
役所へ申請に行くと、「4条」や「5条」といった言葉が登場してきますので、覚えておくことをオススメします。
ここで、対象となる農地は、「耕作の目的に供される田畑や果樹園等」であることが原則です。見た目上が農地であることが重要で、現況主義を採用しています。
農地転用も、農地法により原則は許可が必要です。
また農地には、転用できない農地もあるため、最初は窓口で農地種別の調査を行ってもらいながら、農地転用の申請作業を進めていきましょう。
スムーズに農地を売却したいなら「HOME4U」
農地を売却する場合は、農地を扱ったことのある地元の不動産会社に依頼することをオススメします。
農地の仲介には、許可手続きを進めるうえでの経験が必要だからです。
ただし、そもそも不動産会社を知らない人も多いと思います。
そこでオススメなのが「HOME4U」です。
HOME4Uは不動産一括査定サイトです。
不動産一括査定とはインターネット上であなたが売りたいと思っている不動産情報・個人情報を入力すると、複数の不動産会社が自動的に見つかり一度に査定依頼できるサービス
複数の不動産会社から査定額を提示してもらうことができ、だいたいの相場観を掴むことができます。一括査定の流れとしては下記の通り。
ただ、残念なことに「農地」に対応している一括査定は少なくHOME4Uぐらいしかありません。
農地査定の方法
申し込み際に必ず「農地」を入れるようにしてください。
物件を選ぶときに「その他」、すると入力欄が出るので「農地」と記載します。
すると下記のように農地に強い不動産会社が見つかります。
農地相場の調べ方
農地に関しては、全国農業会議所が田畑の売買価格について、調査結果を公表しています。
平成28年田畑売買価格等に関する調査結果によると、農地の価格は下表の通りです。
ブロック | 純農業地域 | 都市的農業地域 | ||
---|---|---|---|---|
田平均価格 (単位:千円/10a) |
畑平均価格 (単位:千円/10a) |
田平均価格 (単位:千円/10a) |
畑平均価格 (単位:千円/10a) |
|
全 国 | 1,256 | 910 | 3,522 | 3,368 |
北海道 | 260 | 122 | 452 | 475 |
東 北 | 600 | 360 | 1,629 | 1,393 |
関 東 | 1,619 | 1,704 | 2,565 | 2,969 |
東 海 | 2,427 | 2,172 | 6,820 | 6,684 |
北 信 | 1,499 | 998 | 2,547 | 2,270 |
近 畿 | 2,186 | 1,430 | 3,898 | 3,810 |
中 国 | 779 | 459 | 4,402 | 3,084 |
四 国 | 1,725 | 987 | 4,883 | 4,062 |
九 州 | 905 | 607 | 1,877 | 1,595 |
沖 縄 | 890 | 1,417 | – | 0.7 |
相場程度であれば、まずは全国農業会議所の調査結果にて調べることが可能です。
その他、農地については、最初に説明したHOME4U一括査定サイトで不動産会社に査定依頼が行えます。
実際に売却する場合には、一括査定サイトを使って、査定から始めましょう。
農地を売却した場合の仲介手数料
農地は宅地ではないため、宅地建物取引業法の規制を受けません。
つまり、農地を売買した場合、仲介手数料を規定する法律は無いため、仲介手数料はいくらでも良いことになります。
ただし、農地の売買でも宅地建物取引業法の規制を準用することが多いです。
宅地建物取引業法の仲介手数料の規制は以下のようになっています。
取引額※1(売買金額) | 仲介手数料の上限額(税抜きの速算式) |
---|---|
200万円以下 | 5%(18万円※2) |
200万円超から400万円以下 | 4%+2万円(18万円※2) |
400万円超 | 3%+6万円 |
※1.取引額は、物件の本体価格をいい、消費税を含まない価格を指します。
※2.空き家などの現地調査が必要な取引の場合(2018年より施行 出典:国土交通省より)
結論としては、いくら請求されるか分かりません。
農地を不動産会社に依頼して売買する場合には、早めに仲介手数料はいくらになるのかについて確認することをオススメします。
農地を売却した場合の税金
譲渡所得
農地を売却したときは、譲渡所得と呼ばれる所得が発生し、所得税および住民税が課せられることになります。
譲渡所得は、以下の式で表されます。
譲渡所得 = 譲渡価額(売却額)-取得費(購入額)-譲渡費用(売却に掛かった経費)
※取得費とは土地は購入価額、建物は購入価額から減価償却費を控除した額
※譲渡費用は仲介手数料等の売却に要した費用
課税の特例
国内では農業が衰退しているため、農業をやる気のある人に売ったのにも関わらず、高い税金がかかってしまっては、農業の促進を図ることができません。
そのため、農業の担い手への売却を促すため、農業経営基盤強化促進法の農用地利用集積計画等により売却した場合など、一部の売却では特別控除が認めらえます。
特別控除がある場合の譲渡所得は以下の通りになります。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 - 特別控除
特別控除額とその要件は以下の通りです。
特例 | 控除額 | 要件 |
---|---|---|
農地利用目的の譲渡 | 800万円 | ・ 農用地区域内の農地を農用地利用集積計画又は農業委員会のあっせん等により譲渡した場合 ・ 農用地区域内の農地を農地中間管理機構又は農地利用集積円滑化団体に譲渡した場合 |
1,500万円 | ・ 農用地区域内の農地等を農業経営基盤強化促進法の買入協議により農地中間管理機構に譲渡した場合 | |
転用目的の譲渡の例 | 5,000万円 | ・ 農地が土地収用法等により買い取られる場合 等 |
特別控除を適用して、譲渡所得がゼロ以下となれば、所得税および住民税は発生しません。
尚、税率は所有期間によって異なります。
所有期間は5年以下であれば短期譲渡所得、5年超であれば長期譲渡所得とされます。
定義としては下記をご確認ください。
それぞれの税率は以下の通りです。
所得税 | 住民税 | 合計税率 | |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 30.63%(※注) | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得 | 15.315%(※注) | 5% | 20.315% |
(注) 平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付することになります。
所有期間は、相続しても、被相続人の所有期間を引き継ぐことができます。
農地を相続した場合
農地を相続した場合、農地法の定めにより遅滞なく農業委員会に届け出ることが必要です。
また、農地を相続した相続人が農業を営む場合には、「農地にかかる相続税の納税猶予」という特例があるため注意が必要です。
農地を相続した場合の対処法については下記記事で詳しく解説しています。
まとめ
農地の売買で知っておきたい農地法等や仲介手数料・税金を解説してきました。
農地の売買は、農地法等の法律が厳しいことに特徴があります。
宅地との違いをよく認識して、売却に臨むようにして下さい。
売却は「HOME4U」を使って、農地に強い不動産会社を探しましょう。
一括査定については下記記事でさらに詳しく解説しています。