住宅ローンの返済ができなくなると、競売か任意売却によってマイホームを売却することになります。
競売は公的な手段ですが、任意売却は民間業者のビジネスです。
実は任意売却は民間業者によるビジネスである以上、悪徳業者も存在します。
お金に困っている人は詐欺に引っかかりやすいため、任意売却は悪徳業者がはびこりやすいビジネス環境でもあります。
こんな悩みをスッキリ解消!
- 任意売却ビジネスとは、そもそもどのようなものなのだろうか
- 詐欺も多いと聞いたが、本当だろうか
- 悪徳業者によるビジネスモデルはどのようなものなのだろうか
そこで今回の記事では「任意売却ビジネス」にフォーカスしてお伝えいたします。
この記事を読むことであなたは任意売却ビジネスを理解し、詐欺から騙されないようにするにはどのようにしたら良いのかを知ることができます。
任意売却は「例外」の売却方法
まずそもそも任意売却とは何かについておさらいしていきます。
原則は競売で行う
住宅ローンを借りる際、銀行が土地と建物に抵当権(担保のこと)を設定します。
抵当権とは、貸したお金が返ってこなくなった場合、担保に取っている土地と建物を売却することで残債を回収できる権利
抵当権は民法で定められて正当な権利になります。
抵当権の話をすると、同じ人に色々な呼び名がつきますので、最初に名前を整理しておきます。
銀行は債権者や抵当権者と呼ばれます。
所有者(本人)は債務者や抵当権設定者と呼ばれます。
項目 | 当事者 | |
---|---|---|
呼び名 | お金を借りている人 | お金を貸している人 |
所有者 | 銀行 | |
債務者 | 債権者 | |
抵当権設定者 | 抵当権者 |
抵当権者は、債務者がお金を返せなくなると、競売にかけることにより残債を回収できます。
競売を行うことを抵当権の実行と呼びます。
抵当権は民法で規定された正当な権利のため、競売は裁判所が行います。
裁判所は国の機関であるため、公平性・透明性が保たれており、詐欺はありません。
抵当権者である銀行は、競売と言う公的な債権回収手段を持っているというのが原理原則です。
例外が任意売却
ところが、抵当権者にとって見ると、お金を回収することが目的であるため、競売にかけることは目的ではありません。
競売はあくまでも手段にすぎず、お金を回収できるのであれば、極論すると何でも良いわけです。
そこで登場するのが任意売却です。
任意売却とは、競売と言う公的な手段に頼らず、債務者が自主的に(任意に)マイホームを売却することによって、住宅ローンを返済するという手法の総称
任意売却は、競売のような公的な手段ではないため、特段のルールがありません。
極論すると、業者に頼らず自力で不動産を売却しても任意売却になります。
きちんとした業者を使って売却しても任意売却ですし、悪徳業者に騙されて売却するのも任意売却です。
つまり、任意売却とは公的な手段に頼らず、自己責任で行う普通の売却のことを指します。
誰も守ってくれないので、悪徳業者に騙されれば、それまでということになります。
任意売却はすべて自己責任になる
任意売却を選択するということは、債権者が競売という公的な手段を放棄することでもあります。
そのため、任意売却は勝手にできず、債権者の合意を得ることが必須条件になります。
任意売却か競売かを選択する決定権はあくまでも債権者にあるため、勝手に任意売却はできないということを知っておく必要があります。
任意売却を行うにあたっては、債権者の合意の他、差押がないことや、連帯保証人の同意が得られていること等の条件もあります。
任意売却を行うための条件については、下記に詳しく紹介していますので、ぜひご参照ください。
なお、まずは任意売却も競売もせず通常の売却で高く売ることを考えるべきです。
「すまいValue」「SUUMO」「HOME4U」などの不動産一括査定を利用して、しっかりと高く売ってくれる不動産会社をまず見つけることが大事。
不動産一括査定サイトについては、下記記事で詳しく解説しています。
以上、ここまで任意売却とはについて見てきました。
任意売却ビジネスを理解するためには、原理原則である競売の流れを知っておく必要があります。
任意売却は、競売にかけられても、競売を取下げることができれば任意売却に切り替えることが可能です。
そこで次に競売の流れについて見ていきます。
競売の4つの流れ
期限の利益の喪失
住宅ローンを3ヶ月以上滞納すると、債務者は「期限の利益」を喪失し、ローン残債の一括返済を迫られます。
競売や任意売却は一決返済を迫られたところからスタートです。
期限の利益とは、長期間の期限に渡って住宅ローンをゆっくりと返済すれば良いという債務者の利益です。
滞納で債務者が約束を破ったことにより、「ゆっくり返済しても良い」という状況から、「一気に返済しろ」という状況に変わります。
一気に返済するには家の売却が最も現実的な手段であるため、競売もしくは任意売却によって売却して返済することになります。
債権者の立場からすると、債権回収手段としては競売という手段が確保されているため、あえて任意売却を進める積極的な理由がありません。
そのため、放っておくとそのまま競売の手続きへと移行します。
任意売却を選択するためには、債権者に任意売却をすることの合意を得る必要があります。
競売の申立て
期限の利益が喪失した段階で、債権者は銀行からサービサーと呼ばれる債権回収会社へ移行します。
そのため任意売却の合意を得るのはサービサーからの合意を得ることになります。
サービサーに債権が移管されると、その後1~2ヶ月で裁判所に対し「競売の申立て」が行われます。
すると債務者のところに、「競売開始決定」の通知が届くことになります。
ここまで、住宅ローンの最初の滞納から半年くらいの時間があります。
これ以降、任意売却に切り替えるためには、債権者に競売の取下げをしてもらうことになります。
取下げしてもらえれば、任意売却への切り替えは可能です。
競売開始決定から1ヵ月ほどすると、裁判所から執行官や鑑定人が現地を訪れ、現状の調査や鑑定評価が行われます。
ここでの調査結果は、「期間入札の公告」、「現地調査報告書」、「評価書」という形になり、競売の前に公表されます。
配当要求終期の公告
現状調査の段階で、裁判所において「配当要求終期の公告」というものが行われます。
配当要求終期の公告は、他の債権者がいる場合、他の債権者に「この物件は競売になります」と知らしめるために行われるものです。
ただ、「配当要求終期の公告」とは、裁判所の書類がポンと置いてあるだけなので、誰でも見ることが可能です。
もちろん、悪徳業者も見ることは可能です。
入札
配当要求終期の公告から2ヶ月ほど経つと、債務者のところにも入札の通知が来ます。
さらに入札通知が来てから2ヶ月ほど経つと、競売情報がインターネットに公表されます。
競売情報がインターネットに公表されると、その2週間後に入札が開始され、1週間で入札が締め切られます。
競売情報がインターネットに公表されて以降はあっという間に競売が実行されます。
任意売却には、十分な売却期間を確保しないと債権者の合意を得ることができません。
そのため、競売の取下げも入札通知が来て以降となると難しくなります。
競売は最初の滞納開始から競売完了まで1~1.5年程度の時間がかかります。
最短で行くと滞納開始から入札通知までは9ヶ月程度です。
任意売却をするには、滞納開始から9か月以内には合意を得て実行しなければならないというスピード感が必要です。
以上、ここまで競売の流れについて見てきました。
では悪徳業者に引っかからないようにするには、どのようにしたら良いのでしょうか。
そこで次に本題の悪徳任意売却ビジネスの手口について見ていきます。
悪徳任意売却ビジネスの2つの手口
情報収集の手口
詐欺は、基本的に弱い人たちを狙ってきます。
通常、お金を奪うならお金持ちから奪った方が良いような気がしますが、詐欺の発想はその逆でお金のない人たちからお金を奪い取ります。
詐欺は、「住宅ローン滞納者」「高齢者」「創業したての人」等々の弱くて困っていそうな人を狙います。
人の足元を見ることが得意なため、強くて裕福な人には逆に近づきません。
配当要求終期の公告詐欺は、人を値踏みするような目で見るため、目つきが悪いです。
常日頃、獲物を探しているため、隙を見せるとすぐに入り込んできます。
住宅ローン滞納者は、「私は困っている人です!」と公言しているため、詐欺にとっては格好の餌食です。
ただ、住宅ローンの滞納というのは、本来、債権者と債務者との間の問題であるため、自分から言わない限り、第三者に知られることはありません。
そのため、本来であるならば住宅ローンの滞納という情報は、詐欺は知りえない情報になります。
配当要求終期の公告を見ている
ところが、詐欺でも効率よく餌食を見つける方法があります。
それは裁判所が行っている「配当要求終期の公告」です。
配当要求終期の公告に行けば、これから競売にかかる人がピンポイントで把握できるため、ターゲットを正確に捉えることができます。
尚、配当要求終期の公告によって情報収集をする業者が全て悪徳業者ではありません。
基本的にはまともな任意売却専門業者ですが、中には悪徳業者も紛れ込んでいるという程度です。
配当要求終期の公告が行われると、任意売却業者からDMや、電話、訪問営業等の様々なアプローチがあります。
アプローチしてくれる業者を信じ込まない
もちろん、まともな業者も多いです。
ただし、アプローチしてくる業者の中には、「良い人」を装った顔をして近づいてくる悪徳業者も紛れ込んでいるため、注意が必要です。
この段階では競売を取下げることができる期間は、残り数ヶ月です。
時間がないため焦らされると判断が鈍ります。
詐欺に限らず、悪い営業マンと言うのは人を焦らせて契約を取るという傾向があります。
半分、恐喝っぽく煽るのが常套手段です。
人間は精神的に追い込まれていると、「怪しいかも」と感じていた手口にすがってしまいます。
甘い話には要注意ですので気を付けるようにして下さい。
お金を取る手口
任意売却ビジネスでは、債務者からは仲介手数料を取らないのが普通です。
通常、債務者は一切、任意売却業者に金銭を支払う必要がありません。
ところが、悪徳業者は任意売却を行う前に手数料という名の金銭を先に受け取った後、とんずらして連絡が取れなくなります。
任意売却を行う前に、金銭を要求してくる業者は、絶対に怪しいので払ってはいけません。
そもそも、任意売却とは、自主的な売却であるため普通の売却と何ら変わりません。
普通の売却では、不動産会社へ支払う仲介手数料は売却が決まったときに支払います。
つまり、仲介手数料というのは成功報酬です。
宅地建物取引業者は、売買において仲介手数料以外の手数料を受け取ることができません。
そのため、買主を決める前に何らかの金銭を売主から要求するということもできません。
このルールは任意売却においても同様です。
悪徳業者は、任意売却は「特別な売却だから」という形で意味不明の手数料を取りますが、これは宅建業法違反になります。
任意売却は、そもそも債権者(銀行)のために行うものです。
任意売却業者が、お金のない債務者から手数料を取るという行為をそもそも許しません。
そのようなお金があるのなら、「返済に回せ」ということになります。
任意売却業者への手数料は、売却額の中から分配されます。
依頼者である債務者が別途、仲介手数料を払うということはありません。
任意売却業者から何らかの金銭の要求があった場合には、詐欺ですので支払ってはいけません。
その業者とは手を切るようにして下さい。
以上、ここまで悪徳任意売却ビジネスの手口について見てきました。
では、なぜ悪徳業者に引っかかってしまうのでしょうか。
そこで次に悪徳任意売却業者の誘い文句について見て言います。
悪徳任意売却ビジネスの誘い文句
任売客は高いという嘘
詐欺師からすると、任意売却は騙されやすいお金に困っている人を効率的に狙い撃ちできるビジネスです。
配当要求終期の公告でターゲットを定めることができるため、「オレオレ詐欺」のような非効率に電話をかけまくるというよりは、よほど効率的です。
悪徳任意売却業者の典型的な誘い文句としては、「任意売却の方が高く売れますよ。」という誘惑があります。
一般的に、「競売よりも任意売却の方が高く売れる」と信じられているため、お金に困っている人は、この言葉に藁にも縋る気持ちで騙されてしまいます。
「競売よりも任意売却の方が高く売れる」という説は、不動産会社や司法書士、税理士等々の専門家でもそのような発言をする人がいます。
そのため、ますます任意売却の方が競売よりも高く売れるということに信ぴょう性があるように思えます。
しかしながら、実際に任意売却の方が高く売れるというのは確証がありません。
任意売却による売却価格というのは、どこにも公表されていないため、本当に任意売却の方が高いということに関しては、誰も検証できないのです。
競売は高いという真実
一方で、競売に関しては、裁判所が運営している不動産競売物件情報サイト(通称「BIT」)にて売却結果の情報公開が行われています。
以下に、BITで公表している東京地方裁判所本庁の平成29年度に行われた土地の競売結果を示します。
売却基準価格と売却価額を抽出し、筆者の方で売却価額は売却基準価額の何倍になっているのか倍率を計算しました。
売却基準価額(円) | 売却価額(円) | 倍率 |
---|---|---|
42,970,000 | 74,261,100 | 1.7倍 |
540,000 | 2,010,000 | 3.7倍 |
31,440,000 | 63,090,000 | 2.0倍 |
6,970,000 | 11,586,420 | 1.7倍 |
15,530,000 | 20,811,000 | 1.3倍 |
2,630,000 | 6,000,011 | 2.3倍 |
7,470,000 | 14,510,010 | 1.9倍 |
9,600,000 | 13,321,000 | 1.4倍 |
6,800,000 | 9,030,000 | 1.3倍 |
6,000,000 | 15,550,000 | 2.6倍 |
13,930,000 | 20,660,000 | 1.5倍 |
13,880,000 | 17,021,000 | 1.2倍 |
2,630,000 | 6,350,000 | 2.4倍 |
16,980,000 | 15,310,000 | 0.9倍 |
平均倍率 | 1.9倍 |
売却基準価額とは、競売の調査時点で不動産鑑定士が鑑定評価を行って定める価格のこと
この売却基準価額は市場価格の70%程度を目安にして定められます。
売却基準価額は、競売前に公表される3点セットと呼ばれる「期間入札の公告」「現地調査報告書」「評価書」のうち、「評価書」に記載されている額です。
この金額に基づき、各自が入札額を決めて、札を入れます。
BITでは競売の結果、実際にいくらで売却されたのかを公表しています。それが売却価額です。
そのため、実際の売却額が売却基準価額の何倍程度で売却されたのかが分かります。
平成29年度においては、売却価額は売却基準価額の平均1.9倍で売却されています。
だいたい、いつも売却価額は売却基準額の2倍程度です。
売却基準価額が市場価格の70%程度とすると、売却額は市場価格の140%、つまり市場価格の1.4倍で売れています。
どうでしょうか。この結果は決して「競売が安い」とは言い切れません。
競売は実際に安くなく、十分に高い価格で売却できるのです。
任意売却は「買取」と同水準で売れる
それに対し、任意売却の売却目線は「買取」とほぼ同水準であるということが一般的に知られています。
買取とは、不動産会社が転売を目的として直接買い取ること
買取は仕入であるため、市場価格よりも安くなりますが、その価格目線は一般的に市場価格の80%程度です。
つまり任意売却の価格目線は市場価格の80%程度です。
競売は市場価格の140%で売却できますが、任意売却となると市場価格の80%でしか売却できません。
つまり比較するまでもなく競売の方が任意売却よりも高いです。
たまに競売は市場価格の70%でしか売却できないと説明する人がいますが、それも間違いです。
70%というがどこから来た数字かというと、売却基準価額が市場価格の70%であるという点から来ています。
競売では売却基準価額が市場価格の70%にはなりますが、実際の売却価格はその2倍になります。
そのため、「任意売却が競売よりも常に高い」とは断言できません。
「任意売却の方が競売よりも高く売れますよ」という言葉には騙されてはいけないのです。
淘汰される騙しビジネス
競売は国が行っている売却のため、情報公開が非常に進んでいます。
一方で、任意売却は売却結果の情報公開がありません。
あと5~6年もすれば、「競売も十分に高く売却できる」という知識が浸透し、「任売客の方が高い」と誘導する騙しのビジネスモデルはいつか無くなるものと思われます。
ちなみに、任意売却であっても競売であっても、売却後に残った残債は返済しなければなりません。
競売はある程度の価格で売れることは公表されているため、本当に高く売却できる保証のない任意売却は、むしろ慎重に検討すべきです。
任意売却の詐欺については下記に詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
以上、ここまで悪徳任意売却ビジネスの誘い文句について見てきました。
それでは任意売却を選択したい人が悪徳業者に騙されないようにするためにはどのようにしたら良いのでしょうか。
そこで次に悪徳任意売却ビジネスに騙されない方法についてご紹介します。
悪徳任意売却ビジネスに騙されない方法
任意売却では、買受人を指定できるというメリットがあります。
そのため、今の家にそのまま住み続けたいという人にとっては任意売却を選択すべきです。
任意売却は、本来、債権者のための売却です。
そのため、サービサーや銀行にはお抱えの任意売却業者が出入りしています。
債権者のために動き、きちんと高く売却してくる実績のある任意売却業者です。
そこで任意売却を選択したい場合は、債権者に任意売却業者を紹介してもらうことが一番良いです。
債権者に黙って勝手に任意売却を進めるのは最悪です。
そもそも任意売却は債権者の合意を得なければならないため、自ら得体のしれない任意売却業者を債権者に連れていくよりは、債権者から任意売却業者を紹介してもらった方が、遥に話が早いです。
債権者も自分たちの知っている任意売却業者なら、安心して任せることができます。
そのため、債権者の合意も取りやすく一石二鳥です。
任意売却を選択したい場合には、まずは債権者にその旨を伝え、債権者から任売却業者を紹介してもらいましょう。
尚、任意売却を選択する場合には、それなりの理由が必要になります。
本当に任意売却をする必要があるのか十分に考えてから行動するようにして下さい。
まとめ
悪徳任意売却ビジネスには要注意!悪徳任意売却業者に騙されない方法について見てきました。
「任意売却の方が高く売れる」という言葉を安易に信じず、任意売却の必要性がある場合に限り、任意売却を選択するようにしましょう。