2014年に成立した「空き家対策特別措置法(空き家法)」。
「特措法」や「空家法」ともいわれるこの法律によって、空き家所有者への風当たりは強くなったと言わざるをえません。
どんなことが「風当たり」となっているのかというと、空き家の管理を怠っている所有者に対して過料(刑罰ではない金銭罰)や増税などの罰則が与えられるようになったこと。
空き家所有者としては、具体的に「いつ?」「どうなったら?」罰則があるのか気になるところ。
今回は空き家対策特別措置法について詳しく解説し、罰則を受けないために空き家所有者ができることをお伝えします。
空き家対策特別措置法で大きく変わった2つのこと
法律の条文や概要をみても、きっと「なんのこっちゃ?」だと思いますので要点をまとめます。
空き家対策特別措置法の施行により大きく変わったことは、次の2つの点です。
空き家対策特別措置法により変わった2つのこと
- 空き家に対する行政の権限が増加した
- 空き家が建つ土地の固定資産税が増税する可能性が出てきた
詳しくみていきましょう。
変わったこと①空き家に対する行政の権限が増加
空き家対策特別措置法ができるまでは、空き家に対する法令は各自治体の条例しかありませんでした。
そもそも行政には、空き家に立ち入ったり、管理不行き届きの空き家に対して罰則を与えたりする権限はなく、空き家の所有者を特定できないことも頻出していたんですね。
空き家問題が深刻化していく中で、周りに危害を与えかねない老朽化した空き家も増加していき、「これではいけない!」となって登場したのが、空き家対策特別措置法です。
空き家対策特別措置法では、以下のような権限を各自治体に認めています。
- 空き家の調査
- 空き家に対する行政指導や行政処分
- 空き家を解体、撤去するなどの強制代執行
つまり管理不行き届きの空き家は、行政から立ち入り調査がおこなわれ、最終的には強制撤去される可能性が出てきたということです。
空き家問題については下記記事で詳しく解説しています。
変わったこと②固定資産税の優遇がなくなる可能性が
空き家対策特別措置法で変わったことの中で、空き家所有者が一番に気にするべきことは空き家が建つ土地の固定資産税が増税する可能性が出てきたこと。
住宅が建つ土地は「住宅用地の特例」により、以下のように固定資産税(場所により都市計画税も)が優遇されています。
用地の大きさ | 固定資産税 | 都市計画税 |
---|---|---|
小規模住宅用地(200㎡以下) | 課税標準×1/6 | 課税標準×1/3 |
一般住宅用地(200㎡超) | 課税標準×1/3 | 課税標準×2/3 |
この優遇は、空き家に対する行政処分の1つである「勧告」のタイミングで撤廃されます。
ここからは具体的に「いつ」罰則が与えられるか見ていくぞ。
固定資産税の増税や強制代執行になるまでの流れ
それでは行政が空き家の立ち入り調査するところから、強制撤去するまでの流れをみていきましょう。
強制代執行になるまでの流れ
- 立ち入り調査
- 助言・指導
- 勧告
- 命令
- 強制代執行
step
1立ち入り調査
周りに危害を与える恐れがあると判断された空き家は、まず立ち入り調査がおこなわれます。
法律に基づく立ち入り調査となるので、拒否した場合は過料(罰金)が定められています。
ここで早急な措置が望まれる「特定空き家」と判断されれば、次の段階である助言・指導に進みます。
step
2助言・指導
助言や指導は、行政処分ではなく行政指導といわれるものです。
この段階で法的効力はありませんが、草木の伐採や建物の修繕、解体等、改善を促されます。
step
3勧告
続いておこなわれるのが、勧告です。
この段階でも行政指導なので法的効力はありませんが、勧告のタイミングで固定資産税の優遇撤廃が言い渡されます。
step
4命令
勧告に一定期間の間従わない場合は、改善を命令されることになります。
ここからは、行政指導ではなく行政処分。命令に従わない場合は、50万円以下の過料(罰金)と処されます。
step
5強制代執行
再三の行政処分、行政指導に従わない場合にとられる最終的な措置が「強制代執行」です。
強制代執行とは、行政機関が強制的に建物の解体や一部撤去、草木の伐採などをおこなう行為。
代執行にかかった一切の費用は、空き家所有者から徴収します。
この費用は、国税及び地方税に次ぐ順位で優先的に徴収されます。
行政代執行については下記記事で詳しく解説しています
「特定空き家」を避けるには
立ち入り調査から強制代執行になるまでの流れをみておわかりいただけると思いますが、「特定空き家」に指定さえされなければ、固定資産税が増税することも、強制代執行もないんです。
ではここからは、気になる「特定空き家の条件」をみていきましょう。
国土交通省が定める特定空き家の4つの条件
国土交通省は、以下の4つを特定空き家の定義としています。
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 建物の傾斜、基礎の損傷、屋根や外壁などが脱落・飛散しそうな状態など
- そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 臭気の発生、ゴミの不法投棄、ねずみ・ハエなどの生物が発生している状態など
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- 景観法や景観保全にかかるルールに著しく適合しない、窓ガラスが割れている、立木等が繁茂している状態など
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
- 立木等の繁茂により歩行者の通行を妨げている、不特定の者が容易に侵入できる状態など
※出典:国土交通省「「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)【概要】」より
特定空き家に指定されてしまうのは、簡単にいえば以下のいずれかに当てはまる状態であるときです。
特定空き家になる4つの条件
- 倒壊の危険
- 衛生上問題
- 景観を損なう
- 防犯、防災上危険
こうなってしまうことをふせぐために必要なのは、空き家の適正な管理です。
そもそも空き家対策特別措置法は、空き家所有者へ適正な空き家管理をもとめるための法律といっても過言ではありません。
人が住まなくなった空き家は、湿気がこもりやすくなり、通風もないことから驚くほど早く劣化が進みます。
空き家は最低でも月に1回の巡回や換気、草木の剪定をすることが理想ですが、空き家が遠方にあったり、所有者が高齢者や共働き世帯であったりすれば大きな負担にもなるでしょう。
最近では空き家管理業者へ巡回や清掃を委託することもできますが、そうなると初期費用や月々1万円前後の委託料が必要となります。
空き家の管理は、いまや「義務」。管理のために時間と労力を割くか、金銭的負担をしなければ、空き家を所有し続けることは難しいといえます。
しかし解体することで、他の問題も出てくるんじゃよ。
空き家を解体する上での問題点
空き家を解体すれば、「家屋」の管理から開放されます。
しかし更地にした場合には、次の3つの問題点が生じます。
空き家を更地にした場合の3つの問題
- 更地の管理
- 解体費用が高額
- 固定資産税の増税
問題①更地の管理
家を解体しても、空き地の管理は続きます。
除草やゴミの清掃など、定期的な巡回は引き続き必要になるでしょう。
②解体費用が高額
家屋の解体にかかる費用は、木造住宅であれば4~5万円/坪が相場です。
30坪の家屋の解体には、150万円前後がかかるということです。
ただし空き家対策特別措置法の施行を受けて、近年では多くの自治体が空き家解体にかかる費用を一部助成しています。
例えば、住宅が密集していて古い家屋が多くある葛飾区では、200万円を上限に空き家解体のための補助金を助成しています。
固定資産税の増税にも注意
空き家対策特別措置法の一環として、特定空き家に対する「勧告」のタイミングで固定資産税が増税するとお話しましたよね。
それは住宅が建つことで土地の固定資産税が優遇される「住宅用地の特例」が撤廃になるためです。
空き家を解体して更地にしてしまうと、有無を言わさず「住宅用地の特例」の適用外となります。
そのため、解体することで土地の固定資産税は大幅に上がると認識しておきましょう。
更地にした時の税金については下記記事で詳しく解説しています。
空き家の相続放棄は可能だけど注意点あり
結論からいえば、空き家を相続放棄することはできます。
しかし空き家の相続放棄は、あまり現実的とはいえません。
空き家を相続放棄する方法
まずは、空き家を相続放棄する方法からみていきましょう。
相続放棄は、相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所にその旨を申請する必要があります。一度放棄すると、取り消すことはできません。
相続人が複数いる場合も個人の判断で相続放棄することができますが、放棄された相続分は他の相続人に移行します。
もし相続開始から3ヶ月で相続放棄を決断できなければ、期限を前に、決断するための期間の延長を申請することができます。
3ヶ月以内に相続放棄と延長申請のいずれかを申請しなければ、「単純承認」といってすべての資産を相続することを承認したとみなされるので注意が必要です。
「空き家だけ」を相続放棄することはできない
相続では、特定の資産だけ放棄することはできません。
現金や預貯金、運用可能な不動産などだけ相続して、「管理が難しい空き家だけ放棄」とはいかないということです。
相続財産には、プラスの資産とマイナスの資産があります。
相続放棄するには、全ての資産を合算してもなおマイナスになるときに限られるわけです。
そこで考えるべきなのが、空き家を売ることなんじゃ。
空き家が不要ならまず売却することをまず考える
空き家対策特別措置法の施行によって、空き家所有者の負担やストレスは確実に増えています。
根本的な解決は、空き家を手放すことしかありません。
空き家が売れる内に売却を
空き家を手放すといっても、老朽化していたり、田舎にあったりする空き家の売却は簡単ではありません。
総務省が5年に一度調査している住宅・土地統計調査によると、2018年度の空き家率は速報値で13.6%。全国には846万戸の空き家があり、近年では地方を中心に人口減少による空き家が増えています。
空き家問題は年々深刻化しており、空き家の売りにくさもまた、それに比例して年々難しくなっていくことは明白。
「売れないから」と空き家の所有を続けている間にも、管理とともに固定資産税などの維持費用の負担は継続します。
「買取」なら売却できる可能性が高まる
不動産会社に仲介してもらって一般消費者に空き家を買ってもらえればいいのですが、需要の低い空き家はなかなか買い手がつきません。
そんなときは、業者買取を検討してみましょう。
業者買取とは、不動産会社に直接買い取ってもらうという不動産売却方法です。
一般消費者に向けて売却するより金額が落ちてしまうというデメリットはありますが、「売れない空き家を手放す」という目的を果たすための方法としては最も適しています。
まずは空き家の売却査定とともに買取見積もりを取ってみて、空き家を手放すための方法を模索してみましょう。
不動産買取については下記記事で詳しく解説しています。
まとめ
空き家対策特別措置法は、危険な空き家を減らすために施行された法律です。
空き家の適正な管理をしていればすぐに罰則を受けることは避けられますが、そもそも空き家の「管理」は応急処置でしかありません。
いくらエイジングケアをしていても人が年老いていくのと同様に、いくら適正な管理をしていても空き家は朽ちていきます。
根本的な解決をしなければ、いずれ特定空き家に指定され、罰則を受けることは避けられないのです。
「今すべきことはなんなのか」これは、空き家を所有する全ての人が考えるべき問題です。