行政代執行とは、行政が命じた義務を果たさない人に対して、国や地方自治体などの行政機関が代わりに撤去や排除などを行う強制的な行為
耳慣れない言葉かもしれませんが、「空家等対策の推進に関する特別措置法(通称、空き家法まはた空き家特別措置法)」の施行により、空き家所有者の人には行政代執行が行われる可能性が出てきました。
こんな悩みをスッキリ解消!
- 行政代執行って何?
- 空き家と行政代執行はどのような関係があるの?
- 空き家特別措置法による行政代執行ってどういうもの?
そこで今回の記事では、「行政代執行」について分かりやすくお伝えいたします。
この記事を読むことで、あなたは行政代執行について理解し、空き家を持っていても行政執行を受けないようにする対策を知ることができます。
行政代執行とは
行政代執行とは、行政代執行法によりその内容が定められています。
行政代執行法第二条には、行政代執行を以下のように規定しています。
【行政代執行法第二条】
法律により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
つまり、何らかの法律で命じられたことを履行しない人がいると、行政が代わりに行うことができると定めています。
さらに、代わりに行うことで発生した費用に関しては、その費用を義務者に請求できると定めています。
例えば、行政が「建物を取り壊せ」と言っているにも関わらず、取り壊さなかった場合、行政が代わりに取り壊すことができます。
また、その取壊し費用に関しては、建物所有者に対して請求することができるということになります。
つまり、行政の命令に背いた人に対し、行政は代わりにその命令を実行することができ、さらに費用も請求できるというのが、行政代執行ということになります。
以上、ここまで行政代執行について見てきました。
では、空き家で登場してくる行政代執行とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
空き家問題で登場する行政代執行
平成27年2月26日に空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空き家法」と略)が施行されました。
空き家法は比較的新しい法律。
行政代執行という言葉は、あまり身近ではないのですが、空き家法によって普通の方でも行政代執行が降りかかる可能性が出てきています。
空き家法ができた理由
空き家法が制定された背景には、国内の空き家の増加です。
総務省統計局から公表された「平成30年住宅・土地統計調査」によると下記のように年々空き家が増加しています。
※出典:総務省統計局「平成 30 年住宅・土地統計調査」より
2018年における空き家の戸数は849万戸あり、全住宅のうち13.6%を占めています。
つまり、住宅全体の増加率以上に空き家の増加率は高く、空き家は勢いよく増加しているということになります。
空き家の増加の原因としては、少子高齢化と人口減少があります。
ただでさえ人口が減っているのに、住宅が作られ続けているため、抜本的な対策を打たないと空き家が減らないことから、空き家法が制定されました。
空き家は放っておくと、敷地以内にゴミが不法投棄されたり、荒廃や老朽化により景観上の問題が生じたりします。
また犯罪者が出入りし地域の治安が悪化するケースや、放火されるなど社会的な問題となることもあります。
このような問題を空き家問題と呼んでいます。
空き家は増えることで社会問題が増大するため、なんとか空き家を解消しなければなりません。
そこで制定された法律が、空き家法になります。
空き家法は空き家を減らすために作られた
空き家法は、最終的な目的は空き家を減らすことにあります。
空き家法では、所有者に対して空き家を自主的に取り壊すように促しています。
空き家法では、社会問題の可能性となる危険な空き家を、指導や勧告等により、所有者に対して段階的に是正を促すことを行います。
それでも一向に改善されない場合には、最終的に「行政代執行」によって行政が空き家を取り壊すことになります。
行政代執行によって空き家が取り壊されると、その取壊し費用は所有者に対して請求が行われます。
もし、取壊し費用を支払うことができない場合、最終的には土地が差押えられます。
そして土地は、最終的に「公売」と呼ばれる売却手続きが行われます。
公売とは行政が差押えた品物を入札等の方法によって売却する手続き
公売が行われると、土地が売却されます。
最終的には、行政代執行によって建物のみならず、土地までも失う可能性があります。
空き家問題および空き家法に関しては、以下の記事で詳しく記載しています。ぜひご参照ください。
ただし、空き家法ではいきなり行政代執行になるわけではありません。
段階的な手順を踏んだ上で、行政代執行まで辿りつきます。
では空き家法での行政代執行までの具体的な流れはどのようなものなのでしょうか。
行政代執行までの流れ
空き家法では、危険な空き家を特定空き家として指定します。
特定空き家として指定される空き家とは、以下のような空き家です。
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態の空き家
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態の空き家
- 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態の空き家
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態の空き家
特定空き家となり得る空き家は、主に近隣住民からのクレームによって発覚します。
このような空き家には行政が調査に入り、上記の要件を満たすものであれば、特定空き家として指定がなされます。
特定空き家の指定から行政代執行までの流れは以下の通りです。
行政代執行までの流れ
- 特定空き家の指定
- 特定空き家の所有者に対する助言
- 特定空き家の所有者に対する指導
- 特定空き家の所有者に対する勧告
- 特定空き家の所有者に対する命令
- 行政代執行
助言とは「空き家が適切に管理されていないので、きちんと管理するようにして下さい」という注意のようなもの
助言に従わないと次に指導が来ます。
指導とは、いつまでに何をどのように改善するかの回答が求められます。
指導に従わないと次は勧告です。
勧告を受けると、固定資産税等の住宅用地の特例を受けることができなくなります。
つまり、土地の固定資産税が上がります。
勧告を受けても是正をしないと次は命令です。
命令では背くと罰金50万円が課されます。
最後、命令にも従わないと、行政代執行が行われます。
行政代執行では、行政が建物を強制的に壊します。
取壊し費用は建物所有者に請求されます。
請求額を支払うことができなければ、土地は公売にかけられ、売却されることになります。
このように、空き家法ではいきなり行政代執行になるわけではありません。
行政代執行までには、指導から命令までの4つの段階があります。
この4つの段階の間で是正を行えば、行政代執行が適用されることはありません。
行政代執行に至るまで、きちんと是正し、回避することが重要です。
では、行政代執行を回避するにはどのようにしたら良いのでしょうか。
行政代執行を回避する3つの方法
行政代執行を回避するには、「自分で解体する」「指導等に従う」「特定空き家にならない」の3つの方法があります。
以下、それぞれ解説していきます。
回避1.自分で解体する
空き家法の目的に従い、まずは自分で解体するというのが一番望ましい問題の解決方法になります。
自分で先に解体してしまえば、行政代執行にかかることはまずありません。
解体費用は、木造戸建住宅では坪4~5万円が一般的な相場。
30坪の家なら120万円~150万円程度かかります。
もし、経済的な余力があれば、自分で解体するようにしましょう。
回避2.指導等に従う
2つ目の対策としては、特定空き家に指定されてしまった場合、とにかく行政指導に素直に従うということです。
行政代執行に至るまでは、助言→指導→勧告→命令の4段階がありました。
勧告からは、固定資産税の特例が受けられなくなるなど、具体的な制裁が始まります。
そのため、とにかく助言または指導の段階できちんと対応することが重要です。
勧告を受ける前に、早めに行政指導に従うようにしましょう。
回避3.特定空き家にならない
3つ目の対策としては、特定空き家に指定されないということです。
空き家になっていても、きちんと管理が行われていれば、特定空き家に指定されることはありません。
自分で管理するか、人に貸すか等の対策を行えば、空き家はきちんと維持できます。
特定空き家とは、イメージとしてはかなりボロボロの空き家を指します。
ボロボロになるまで放置せず、きちんと管理するようにして下さい。
管理が面倒ということであれば、売却も検討すべきです。
最終的に行政代執行を受けることを考えれば、そうなる前に売却した方がお得です。
特定空き家とならないためにも、売却も含めて今後の対応を決めるようにしましょう。
空き家の売却や、維持や活用方法に関しては、以下の記事に詳しく記載しています。
まとめ
行政代執行について解説してきました。
空き家では、いきなり行政執行されるわけではありません。
段階を踏みますので、行政執行受ける前に対策を取るようにして下さい。